青い鳥、会えず

否定論理和

暇な時間を思いっきり無駄にしたっていいじゃないか

 1年ほど前の話だ。”幸せの青い鳥”を探すブームが起きた。


 なんかよくわからん生き物を探すと言えばツチノコを思い出すが、アレとはまた少し毛色が違う。ドバイだかフィリピンだか忘れたが、とにかく海外の大金持ちがペットとして買っていた筈の青い鳥が逃げ出してしまい、それを捕まえた人間に莫大な謝礼金を祓うと喧伝したのだ。


「みっかんねーなー、青い鳥」


 俺もまたそのブームに乗っかり、虫取り網片手に野山を駆け巡る一人だ。


「そりゃそうっすよー。世界中で先輩と同じかそれ以上のバカが躍起になって探してるのにかれこれ1年見つかってないんですよ?もう野生のイヌとかネコとかバッファローとかに食べられちゃってるんですよきっと」


 そして夢のない言葉を投げかけてくるのは俺の大学の後輩だ。なんともかわいげのないやつである。


「そんなこと言うんじゃないよ。いいかい後輩、ロマンというのは追い続けることにこそ意味があるのだ。というかこうやって何かに熱中してる方がだね、文系大学の2年生とかいう日本で最も暇な生き物の時間を無駄にしてしまうんだよ」


「いやみんなバイトに部活に勉強にいろいろやることありますから……先輩くらいのモンですよ、暇だ暇だって言ってるの」


 困った。余りにも正論を突き付けられると人間は上手く反論ができなくなってしまう。こういう時理性を手放しモンキーになることで議論の方向を逸らすことは可能だが、そういう振る舞いは人としてあまりよろしくないし、それになんやかんや言いながら付き合ってくれている後輩にも失礼だと思う。


「そうだな……俺は決して暇なんかじゃない。お前という素晴らしい後輩が付き合ってくれてるんだ、この時間は充実した時間と言うべきだな!」


「あ、すいません私これからバイトあるんでもう15分もしたら行くっすよ」


「ウキィ!?」


 しまった。モンキーが漏れ出してしまった。後輩も怪訝そうな顔をしている。どうにか方向性を戻さないといけない。


「……すまんな、野生動物の気持ちになれば青い鳥を見付けられるんじゃないかと思ったんだが、なりきり過ぎてしまったようだ」


「どういう思考回路してんすか……まあ今更ツッコんでも仕方ないっすけども」


 それはどういうことか、と聞こうとしたがそれはそれでなにか悲しみを生みそうな気がしたので触れないでおくことにした。


「ていうか」


 と、後輩は一拍置いてから


「先輩、本当になんでこんなことしてるんです?別に普段からプラモ作ったりゲームやったりジム行ったり……暇を潰す方法なんていくらでも持ってそうですけど」


 そんな疑問を投げつけてきた。


 ……正直、真面目に言うのは恥ずかしいのだが、まあ答えなければいけないのだろう。先輩として。


「いや、一人で暇を潰す方法ならいくらでも思い付くんだけどさ……それだとお前と遊べないじゃん……お前最近バイトで忙しいとか言ってるから、じゃあ金稼ぎに関係する遊びならって思ったんだけど……」


「……はぁ」


 いかん。流石に先輩としての威厳が無さ過ぎた。いやまあ青い鳥を捕まえて一生遊んで暮らしたいのは本心なのだが、それはそれとしてせっかく仲良くしてる後輩と一緒に遊びたかったのも事実だ。1人で遊ぶ方法なら確かにいくつも思いつくが、そんな俺にも人と遊んでみたいという気持ちと、それはそれとして完全に自分の都合だけで振り回してしまうのは気が引けるという程度の気遣いはある。


「そんなことしなくても……バイトの無い日に誘ってくれたら普通に遊びますよ。対戦ゲームでも何でも、何して遊ぼうとか聞いてくれたら私だって要望出しますし」


「えっ?……そんな感じで……いいの?」


「先輩、もしかしてあんまり友達とかいなかったタイプですか?」


「ウッキィ!?」


 いかん。痛い所を突かれ過ぎてモンキーがあふれてしまった。後輩も怪訝な目を向けている。


「いやスマン取り乱した。しかしそうかー。そんなら、また今度暇なとき一緒に青い鳥探しを手伝ってくれるか?」


「結局青い鳥は探したいんすね……」


「当たり前だ!大学2年生は結局それなりに暇なんだ!一攫千金のチャンスにはキッチリBETしていくぞ!」


 そんな、我ながらくだらないと思う話をしているうちにそろそろ15分。後輩のバイトの時間も近付いてきた頃合いということで解散となってしまった。


 結局青い鳥には会えずじまいだったが……胸のつかえが一つとれたような、そんな爽やかな気分で山を後にするのであった。

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