終夜(はちわ)

 はっきりと解っていることがあるとすれば、リゼを殺したのは僕だということです。


 あのとき、声を出していなければエリナは助からず、リゼは僕らの村へ戻ってきたかもしれません。


 しかし、僕はエリナも助けたかった。


 これは心の底から言える事実です。

 矛盾しているけど、僕はリゼもエリナも見殺すことはできませんでした。

 その結果、僕は世界で最も愛する女性を殺してしまったのです。


 全ては自分のせいです。疑いようがないくらい、殺してしまいたくなるくらい僕は自分自身を憎んでいます。


 そして全ての元凶は、この世界にある『ニルヴァーナ』と呼ばれる機構のせいなのです。


『ニルヴァーナ』を崩壊させない限りこの悲しみの連鎖は続いていきます。僕らが人として生き、人として生まれ変わるためにも『ニルヴァーナ』を破壊しなければなりません。


 また、穢れた『ニルヴァーナ』機構の様に、こちらの世界は全てが汚れています。

 空も川も山も、空気さえも取り返しの付かないほど汚染されています。神々がなぜこのような劣悪な地に住んでいるのか理解できません。


 僕たちの住む世界がどれだけ恵まれていたことか、こちらに来れば誰もが悟るでしょう。

 しかしそれも全てが僕らを健康的に育てるための箱庭、新鮮な臓器を得るための柵に囲まれた牧場であることを忘れないでください。


 僕は村の皆を救い出すことも考えました。

 ですが誰も僕の言葉など信じないでしょう。信じられないでしょう。

 僕の言葉よりも使徒の言葉の方が遥かに重く、有無を言わせぬ力を持っているのですから―――。


 彼らの前では村の人々は皆等しく思考を停止させてしまいます。

 だけど、知らない方が幸福なこともあります。僕がみんなの安寧を奪う権利はどこにもありません。


 何も知らずに朽ちていけるなら、それも一つの幸せの形なのではないでしょうか……。




 最後に―――。


 この手紙をここまで読んでしまった父さんがこれからどうするのか、息子である僕は良く理解しています。


 ですが、無理はしないでください。

 チャンスは必ず訪れます。


 僕が父さんに手紙を渡すことができたのは、こちらの世界にいる協力者のおかげです。

 

 僕は、彼女と共にこの世界に復讐します。

 なにも言わずに家を出た愚かな息子をどうか許してください。


 父さん、どうかお元気で。







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