金の斧、銀の斧

第1話

A「わー。連休も、あっという間に半分終わっちゃうねー? 後半は、何か予定とかってあるー?」

B「……『金の斧、銀の斧』って童話、あるじゃない?」

A「ん? ん?」

B「木こりが泉に斧を落としたら、泉の女神が出てきて『あなたが落としたのは金の斧ですか? 銀の斧ですか?』って……」

A「いやいやいや。知ってる知ってる。さすがに、その話は知ってるから。木こりが『どっちも違います。普通の鉄の斧です』って言ったら、『正直者には三つの斧全部あげましょう』ってやつでしょー? 急に、なにー?」

B「その話に出てくる女神……やってみたいのよね」

A「はあー?」

B「いや、だから……。さっきあなた、連休の予定を聞いたでしょう? 私、この連休中に、『金の斧、銀の斧』に出てくる泉の女神に挑戦してみようと思ってて……」

A「あ、最初の質問に答えてくれてたのっ⁉ 連休の予定史に残るくらいの珍回答だったから、話題が変わったのかと思ったよっ!」

B「じゃあ、早速やってみましょうか。私が女神やるから、あなたは木こりをやってね?」

A「スムーズ過ぎてついていけない! ……でも! 面白そうだから、必死に食らいつくよー⁉」

B「相変わらず、ノリがよくて助かるわ」




A(木こり)「わー、斧を泉に落としちゃったー!」

B(女 神)「ほわんほわんほわんほわーん」

A(木こり)「それ、女神様登場の効果音? ……必要かな?」

B(女 神)「あなたが落としたのは、この金の斧ですか? それとも、こっちの銀の斧ですか?」

A(木こり)「おー? 演技自体は、意外とストーリー通りにやるんだねー? じゃあ私も……どっちも違いまーす。私が落としたのは、普通の鉄の斧でーっす!」

B(女 神)「え、っとー……」

A(木こり)「ん?」

B(女 神)「無い……ですね」

A(木こり)「はい?」

B(女 神)「いや……『普通の鉄の斧』、無いです」

A(木こり)「い、いやいやいや……無いことないでしょう? ついさっき、私が落としたやつですよ?」

B(女 神)「え、でもぉ…………んー、やっぱ無いですねぇ。申し訳ないんですけどぉ、有るやつから選んでいただかないとぉ……」

A(木こり)「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って⁉ え、そういう感じ? 金と銀の斧しか選べなくして、強制的に正直者にさせない感じ? そうすれば、木こりに金も銀も渡さなくていいから、っていう……。うっわ、女神様セコっ! っていうか、普通に嘘じゃん⁉」


B(女 神)「あ、いえいえ。『普通の鉄の斧』は無いですけど、『普通以下の斧』なら有りますよ?」

A(木こり)「は? 『普通以下』?」

B(女 神)「手入れをサボっているせいで刃こぼれしてて、普通以下の切れ味しかない……」

A(木こり)「……んん?」


B(女 神)「しかも、昔何かのシールを貼っていて、今になってそれが恥ずかしくなって剥がしたんだけど、キレイに剥がしきれてなくてあとが残っちゃっているような……」

A(木こり)「ね、ねえ……?」


B(女 神)「さらには、持ち主の手汗が染み込んじゃってるのか、持ち手の部分が黒ずんでて、ほんのり臭いような……」

A(木こり)「おぉい⁉」


B(女 神)「そんな……市場価値ゼロで、タダって言われてもいらないような……プロの木こりさんなら絶対に使わないような……『普通以下の斧』なら、有ります」

A(木こり)「そこまで言う⁉」

B(女 神)「あなたが落としたのは、金の斧ですか? 銀の斧ですか? 斧の形をしたゴミカスですか?」

A(木こり)「そんなこと言われたら、選べないよ!」




B「ふう……これで、木こりに金も銀も渡さずに済みそうね」

A「やっぱりそれが狙いか⁉ もういいよ! 今度は私が女神様やるからっ! 代わって!」

B「あら、今日はそういうパターン?」

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