ダイアログ・イン・ザ・マック

紙月三角

嘘つき村と正直村

第1話

A「最近、なんか面白い事あったー?」

B「実は、この頃ちょっと考えていることがあるのだけど……聞いてもらってもいい?」

A「お、なになにー?」

B「ちょっと変な話だから、言いづらいのだけど……」

A「えー、そんなの気にしないでよー? うちらの仲じゃーん?」

B「……ええ、そうね。ありがとう。じゃあ、話すわね?」


B「『嘘つき村と正直村』の話って、あるじゃない?」

A「えー、それってー……住んでる人が全員嘘しか言わない嘘つき村と、本当のことしか言わない正直村があって、その二つの村へ向かう分かれ道に、一人の旅人と、どっちの村かはわからないけど村人が一人いる。旅人はその村人に何て尋ねたら、正直村に行くことが出来るか……っていうやつー?」

B「ええ」

A「ちなみに一番オーソドックスな正解としては……どっちかの村を指差して『あれはあなたの村ですか?』って聞くんだよねー?

そうすると、もしも指差した方が正直村だった場合は、正直村の村人は当然『はい』って言う。嘘つき村の村人は、指差している方は自分が住んでる嘘つき村じゃないから嘘をついて、やっぱり『はい』。つまり、どっちにしろ村人は『はい』って言う。

旅人が指差していた方が嘘つき村だった場合も同じような理屈で、村人が正直者でも嘘つきでも『いいえ』って言うから……結果として、村人が『自分の村だ』って言った方の村に行けば、正直村に行くことが出来るんだよねー?」

B「そうね。解説ありがとう」

A「結構有名な話だよね。これがどうしたのー? 別に、それほど変な話ってわけでもないと思うけどー?」

B「そうなんだけどね……」


B「この話って……道を聞く旅人の方には、『これを聞けば必ず正直村に行ける』っていう……いわば必勝法みたいなものがあるわけでしょう? でも、その質問をされる村人にはそういうのはない。それって、何かズルくない?」

A「……は?」

B「旅人だけじゃなく、質問をされる村人サイドにも『質問に対してこう答えれば、村人を絶対に正直村に行かせずに済む』っていう、必勝法みたいなものはないかしら……って考えてたの」

A「お、おおー……?」


B「で。一応いくつか案を考えてみたのだけど……本当に通用するかどうか、イマイチ自信が持てなくて……。せっかくだから、あなたを相手に試してみてもいいかしら?」

A「う、うーん……思ってたよりも、ずっと変な話だったねー? …………でも! 面白そうだから、やっちゃいますかー⁉」

B「ノリが良くて助かるわ。じゃあ、早速始めましょう。私が『正直村と嘘つき村の村人』をやるから、あなたは『旅人』ね?」

A「いいねー! 芸人さんの漫才のような、スムーズな入り方!」




B(正直者)「ウィーン。さてと、ここが村への分かれ道ね? 久しぶりに故郷の村に帰れるわ」

A(旅 人)「いやいや、ウィーンって……漫才でよく聞く自動ドアの効果音じゃん。私がさっき漫才って言ったから、引っ張られちゃってるじゃん。え? コンビニにでも入ったの?」

B(正直者)「この分かれ道を過ぎたら、もうすぐ正直村なのね。ああ、早く村のみんなと嘘偽りなしのぶっちゃけトークがしたいわ」

A(旅 人)「なんか変な独り言いってるし……。はいはい、もう分かったよー。質問しないと話が進まなそうだから、聞くよ? 聞けば良いんでしょ? ……すいませーん? 『こっちの村って、あなたの村ですかー?』」

B(正直者)「……」

A(旅 人)「……あれ?」

B(正直者)「……」

A(旅 人)「え、無視……?」

B(正直者)「……」

A(旅 人)「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ……無視は、ダメでしょ⁉ 反則でしょっ⁉ だって無視されたら、正直とか嘘つきとか関係ないじゃん⁉ いくら正直村に行かせたくないからって、それやっちゃったら、そっちのほうがズルいじゃん!」


B(正直者)「だって……お母さんから、知らない人と話しちゃダメって言われてるし……」

A(旅 人)「はあー⁉」

B(正直者)「急に馴れ馴れしく話しかけられて、怖かったし……」

A(旅 人)「いやいやいや! それはお話の都合上、そういうことになってるから仕方ないでしょうが⁉」

B(正直者)「そもそも『私の村はどこ』とか……普通に個人情報だし……。初対面で個人情報聞き出そうとするとか……絶対犯罪者だし……」

A(旅 人)「そ、そんなこと言い出したら、このお話成立しないからーっ!」

B(正直者)「あとなんか……いつも私のことを見る目が、ちょっといやらしい気がするし……」

A(旅 人)「お、おーいっ⁉ 『正直者』でリアルの話に言及するのは、今後気まずいよ⁉」




B「ふう。とりあえず正直者の場合は、こんな感じでやっとけば、旅人を村に行かせずに済みそうね?」

A「今のを、『良し』とするつもりなのね……」

B「じゃ、次は『嘘つき』をやってみましょう」

A「もう、勝手にして……」

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