第44話 衝撃の真実 否定される現実


 エムスとの戦いから数十分後、奴はディスティ達の追跡を完全に振りきったらしく、今俺達はボロボロの大聖堂で怪我人がいないか探していた。


「あの……あなた達もクリスタル集めの参加者だったのですね」


 俺達とディスティの間には微妙な互いを探り合う空気感が生まれており、攻撃し合いクリスタルを奪い合うという結果には至らないが、間違いなく先程より雰囲気が悪くなっている。


「まぁそれも今となってはどうでもいいことですけど……なんでシアが……」


 それだけではない。今回の事件で多くの犠牲者が出てしまった。数多の罪なき人が死んでしまった。

 その中の一人にシアも含まれている。ディスティの頬には多量の液体が流れ落ちた跡があり、今もなお油断すれば数適地面にそれが落ちる。


「とりあえずこれだけは確かにしておきたい。君は俺達の敵ではないんだよね?」

「えぇそうです。わたくしもあなた達三人がクリスタル保有者だなんて驚きです」


 驚きだと言う割には表情が一切動いておらず、目には光が宿っておらずまるで死人のようだ。


「何故あなたが光のクリスタルの力も扱えるのか、この際それはどうでもいいです。

 ですが一つ頼まれてくれませんか? 一時的にでもいいですのでわたくしに光のクリスタルを貸していただけませんか?」

「それはどうし」

「エムスを殺すためです」


 言葉が前のめりになり俺の声が掻き消される。返答など求めていないのか、こちらはまだ何も言っていないというのに彼女は手を差し出してくる。


「貸すのはいいけど、一つだけ約束してほしいことがある」


 もう彼女は手遅れなのかもしれない。憎悪の炎に心が焼かれそれは消せないのかもしれない。

 だがそれでもどうにかなる可能性がほんの少しでもあるなら俺はそれに賭けるしかなかった。


「エムスは殺すんじゃなく捕えるんだ。そしてあいつには罪を償ってもらう。

 戦う最中にやむを得ずなってしまうのはまだいいかもしれない。でも最初から殺す気でいったら、それはあいつと変わらない。俺は君をそんな野蛮な殺人者にしたくない」


 本心からの必死の説得だ。もしこれが響かなければもう彼女に対しては打つ手がない。


「悪人を殺すのの何が悪いんですか?」


 最悪の結果になってしまった。ディスティはもう取り返しがつかないほど憎しみに飲み込まれている。こうなってしまった者を元に戻す手段など俺は知らない。


「さぁ。貸してくださいよ……ねぇ!!」


 余裕がなく焦りを露わにした顔がこちらへと迫ってくる。もはや手段など選んでいられないといった様子で、ほんの少しでも刺激すればこちらにさえ襲いかかってきそうな気迫だ。


「強引に奪おうと言うのなら私達もそれ相応の対応をさせてもらうけど……いいかしら?」


 ミーアがクリスタルの力をオンにしてその圧で牽制する。二人の間に不穏な空気が流れ、そのピリつきが今解き放たれようとする。


「ひぃぃぃ!! 来るな!! 来るなぁ!!」

「落ち着いてください大司祭様私達です!! エムスはもういません!!」


 しかしその空気は近くの部屋から聞こえてきた情けない声で吹き飛ぶ。

 ディスティは杖にかけようとしていた手を止めこちらを一回睨んだ後大司祭様の方へ向かう。

 それからしばらく大司祭様の錯乱する声が部屋の方から響いてくる。何があったのか気になってしまい俺はその部屋を覗きに行く。


「わしが悪かったんじゃ!! でもわざとじゃなかった!! あそこまでしろなんて言ってなかった!! 許してくれ……許してくれぇ!!」


 大司祭様はディスティとここの一人の男性の前でうずくまり、頭を抱え泣き騒ぐ。


「大司祭様。少しお話よろしいでしょうか?」


 その言動。それと罪悪感に苛まれているようにも思える表情。

 そして先程エムスが放った言葉。俺の中で更なる考察が組み上げられる。


「エムスの両親は本当に暴走の果てに自爆する形で死んだのですか?」

「それは……それは……!!」


 歯をガタガタと震わせ、何度も言葉を詰まらせ数十秒後やっと言葉を捻り出す。


「元々は……わしが目障りだったあいつらを痛めつけようとして……じゃが殺すつもりはなかったんじゃ!! なのに実行した奴らが……ゴエッゴホッ!!」


 その場で大きく咳き込み、吐露し終わった大司祭様は涙を床に垂らし謝る相手もいないのに頭を床に擦り付け謝罪する。そうしないと精神を保てないのだろう。


「なんて……? エムスが被害者だった……? じゃあわたくし達は? 母さんは、父さんは、シアはどうして……」

「全部わしのせいなんじゃ……エムスの件も、お前の家族も、今回の事件も全てわしが悪いんじゃ!! 魔族も何も関係ない……浅はかだったわしのせいなんじゃ」


 衝撃の告白。ディスティの人生観全てをひっくり返す発言。

 彼女は真っ白な髪色を揺らし空虚な瞳を見開いていた。

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