ご飯はトリあえずコレ作ろ♪

空本 青大

お疲れ自分さん

一回鍵穴に鍵を刺しこもうとするも外し、二回目ではめ込めた鍵をため息をつきながら回した。

扉を開き玄関の電灯スイッチをパチッと押すと、パァっと一面に明かりが灯る。

体に光を浴びると力が抜け、ようやく帰ってこれたと実感する。

弱弱しく廊下を歩き、リビングのドアを開いたアタシは、部屋の電気を点けるとカバンをベッドの上に投げ捨て、スーツ姿のまま床に敷かれたラグの上に寝転ぶ。


「ただいまアタシ……」

仰向けでシーリングライトを眺めながら、自分に帰宅の言葉を向けた。

ボーっとしていると、今日の出来事がフラッシュバックする。


上司からの叱責、後輩のフォロー、顧客対応etc……

心がズシンと重くなるのを感じ、無意識に記憶に蓋をした。


ふとベッド横にある小さなテーブルの上に置かれた、熊のヌイグルミに視線を合わせる。


『くーちゃん、今日もアタシ頑張ったよ……』

『ようやったな、いっぱい褒めたる!ほんまおまえは頑張り屋さんやな!』


脳内で女児ボイスのエセ関西弁で話すクマとの会話を楽しむ。

茶番でメンタルを微回復させたアタシは、よっこらせと重々しく体を起こした。


「お腹減った……あと燃料という名のビールを体に入れなきゃ……今日は何作ろっかな」


ベッドの横側に体を預け、冷蔵庫に入っている食材たちから今自分に最適なものを思案する。

「冷凍ご飯、サラダチキン、ワカメ、新玉ねぎぐらいか。あとお茶漬けとお味噌汁の素各種。今日はお茶漬けでいいか……でもそれだけだと寂しいから、あともう一品欲しいところ」


スマホを取り出し、ポチポチと操作する。

「さっぱりしたものが食べたいな。≪鶏≫と≪お酢≫で検索っと」


検索結果をスクロールすると、気になるレシピが目に入った。


鶏和え酢とりあえず


「ほうほう、どれどれ……使う調味料は全部家にあるねぇ。でも、水菜と人参が無い……まあ今回は抜きでいいか」

アタシは浅く息を吐くと、ゆっくり立ち上がり、台所へと向かった。


「鍋に水、お酢、醤油、みりんを入れて煮立たせると」

調味料をすべて入れた鍋をコンロに置き、弱中火ぐらいの火にかけた。

約三分後、表面が沸々したところで火を止め、スマホのレシピを確認する。


「ここに鰹節を入れて濾して冷やすと……面倒だから顆粒かりゅうの和風出汁だしでいっか」

スティック状の紙袋に入った顆粒出汁かりゅうだしを取り出し、湯気が立つ鍋の中にパッパと少量加えた。


「これをタッパーに移して、冷凍庫で冷やそ」

タッパーの蓋を閉め、調味液を冷凍庫の中へと収めた。


「冷やしてる間に身を清めるか~」

両手を上にあげ体を伸ばし、再びリビングへと戻る。


そそくさと化粧台の前に座りメイクを落とし、着ているスーツをハンガーラックに掛けた。

そして、そのまま着ているものをすべて脱ぎ捨て、お風呂場へと向かった。


「うぉ~きもてぃ~♪」

熱々のシャワーを全身に浴び、心身の垢を落としたアタシは全身をジャージに着替え、スマホで動画を眺めつつ、髪をドライヤーで乾かした。


「そろそろ冷えたかな~。あと冷凍ご飯をチンしとこ」

冷凍庫から調味液が入ったタッパーと、ラップにくるまった冷凍ご飯を取り出す。

レンジに冷凍ご飯を入れ、解凍と書かれたボタンをグッと押した。

ご飯が解凍されている間、乾燥ワカメを水で戻し、新玉ねぎをスライサーで薄くスライスした。

下準備を終えるとチン!と軽快な音が台所に鳴り響く。

レンジからホカホカのご飯を出し、茶碗に移し替える。

ご飯の上にお茶漬けの素を振りかけ、水を入れた鍋を火にかけた。

水が沸く間に、底の浅い器を用意して、そこに戻したワカメ、スライスされた新玉ねぎを入れ、食べやすい大きさにほぐしたサラダチキンを入れた。


「本当は蒸し鶏使うんだけど、まあ似たようなもんよね」

最後に、盛られた食材の上から、冷やしておいた調味液を万遍まんべんなくかけた。


「あとはご飯にお湯をかけて……よし!完成!!食べるぞ飲むぞー」


台所からリビングのローテーブルへ料理を運び、ウキウキ気分で食卓の前に正座した。

目の前には熱々のお茶漬け、鶏和え酢とりあえず、さらに【白金しろがねのビール】と書かれた缶ビールが並んでいる。


「それでは……いただきます!まずはお茶漬けをば」

器を持ち上げ、汁をズズッとすする。


「ぷはぁ!美味しい!!それじゃあ、今回のメインおかずいっちゃおうかな♪」

箸で鶏肉とワカメと新玉ねぎを挟み、器の底に溜まっているタレにチョンとつけ、口へと運ぶ。


「……うんうん。こ、これは美味い!お酢のサッパリ感と鶏肉がベストマッチ!ワカメと新玉ねぎともすっごい合う!これはビールいくしかないね!」

ビールのプルタブに手をかけ、カシュ!と軽快な音と共に蓋を開けると、一気に飲みこんだ。


「んっ!んっ!んっ!……ぷはぁ!!たまらん!!!酒がすすむ~~~」

爽やかでコクのある苦味と甘みが喉を通り抜け、体中に活力が戻るのを感じた。


「お茶漬け!鶏和え!ビール!完璧な三角食べだぁ!」

食欲にブーストがかかったアタシは、瞬く間に食べきり、最後は一気にビールで流し込んだ。


「あ~満足!美味しかったぁ。これで明日も戦えるな……」

満腹感からか、アタシの意識は徐々に微睡まどろんでいった。


「いかんいかん!片づけて、歯磨きしなきゃ!」

頬をパンパンと叩き、テキパキと食器を洗い終え、手早く歯磨きを済ませる。


明日の身支度を済ませたアタシは、部屋の明かりを消し、布団の中へと潜り込んだ。

暗がりの部屋の中、天井を眺めていると、ふと心がざわめいてくる。


「仕事したくないなぁ……休もうかな?……でも休んだら迷惑かけちゃうし……」

頭の中でグルグルと答えの出ない問答を繰り返す。


「でもまぁビールと美味しいモノがあればなんとかなるかぁ……」

目を閉じ、明日飲むお酒とご飯について思いを巡らす。


日々のこういうささやかな楽しみさえあれば、案外どうにかなるもんだ。

……多分。


とりあえず仕事頑張ろう。

とりあえず生きていこう。


光り輝く未来が来ることを信じて―――





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ご飯はトリあえずコレ作ろ♪ 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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