2,M神社にて(お題:恒星)

 山口県のM神社に到着したのは早朝のことだ。風雨による劣化により何度も再建された鳥居群はつやつやとした赤を朝日に晒していた。私はすぐさまミギュレニア族の痕跡を探し求めた。

 彼らの足跡は独特だ。木の陰や草むらに、四本指の手形と五本指の足跡があればそれは彼らが傍にいる証拠である。彼らは体を前に傾け、二本の手と六本の足を使った八足歩行(と我々は呼んでいる)を行う。なのになぜ八足なのかといえば、その二本の手は他と違い、地面につけられ足の役割をも果たし、その上で、からである。その地面についた手は時折、食料となる苔をはぎ取って食べる時に使われたり、前進する際に邪魔な小石を退けるときに使われたりする。ミギュレニア族は八足歩行のその様から蜘蛛くもと比較されることがあるが、彼らはれっきとした脊椎せきつい動物であるので、彼らを「虫」と蔑む連中とは仲良くできない。

 話が脱線した。私はくまなく鳥居の周辺を見て回った。実のところ、足跡はたくさんあった。ここはミギュレニア族の保護区なのではないかと思うくらいたくさんあった。その割に個体の姿はまったく見えず、私は困惑した。

 いったいどこに。

 頭上で太陽が輝く。銀河系は数千億のうちの一つ、最も私たちに近い恒星は、じりじりと私の肌を焼いた。とりあえず鳥居の周辺の足跡は確認したので、私は足跡の向かう先を探すことを決めた。足跡はどこへでも、どこにでも、まさに方々ほうぼうへ向かっていた。私は足跡を追い回しているような気分にさえなった。しかしどの足跡も、ぷつりと途切れてなくなってしまうのである。

 ミギュレニア族を探し続けて三時間が経過していた。ミギュレニア族の紫陽花のようなあの肌色は一向に見当たらない。卵の形跡すらない。これはどういうわけだろうか。数か月前に確認されたというミギュレニア族たちはどこへ消えてしまったんだろう?

 その時である。きゃっきゃと遊ぶ子供の声が聞こえてきたのは。


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SF800字正拳突きn連発 紫陽_凛 @syw_rin

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