TORIの導き

蒼井シフト

TORIに導かれし冒険者たち【序章】

TORIトリには会えたか?」

 仮眠から戻った班長のエディが、脇腹をぼりぼり掻きながら聞いてきた。

「いや、今日も会えてない」

 俺はそっけなく答えた。操縦席のパネルを見るまでもない。


 TORIというのは、テラフォーミング・オブザベーション・・・Rは何だっけな、忘れた・・・インジケータ―、の略だ。

 はるか昔、強大なカン財団が、地球化可能な惑星を探査した。改造すれば、居住可能になる惑星のことだ。

 数百年前に財団は崩壊して、探査結果も失われてしまった。


 だが、地球化可能な惑星がある恒星系には、そのことを示す標識=TORIが残されている。

 TORIの位置には法則性がある(恒星から約1.5億キロメートル、惑星公転面から垂直に、銀河系の中心に近い方向)。なので、TORIを探すことで、居住可能な惑星を、効率的に「再発見」できるのだ。

 現在、この探索を進めているのが、俺たちが所属する「惑星探査公団」である。


「本部に報告しといてくれ」

 俺は頷いて、操縦席のパネルを叩いた。

「コミット号より。本日もTORI会えずトリあえず、と」

 航法ログを添付する。詳細はこちらを参照のこと。誰も見ないだろうけど。

 送信を見届けると、エディに操縦席を明け渡した。船の奥に潜って仮眠をとる。


          **


 俺たちは、恒星から恒星へ、TORIトリを求めてワープを繰り返した。


「どうして、男だけなんだろう?」

 ノーマンが座る航法席に向かって漂いながら、俺は前からの疑問を表明した。

「俺が子供の頃読んだSFだと、宇宙船の乗組員には、必ず女の子がいたんだ」

「現実にはないことを描く。それが物語なんだよ」

 身も蓋もないことを言われてしまった。

 

「俺の青春を返せ、ノーマン。本来なら、金髪でむっちむちな女の子が、俺の隣に座ってるはずなんだ!」

「そういうのは、僕じゃなくて公団に言ってよ」

「まったくだ。大体なんだその幻想は。私は黒髪の方が好きだ」

「きっと同じシフトの時に、出身惑星の話とかで盛り上がるんだろうな~」

「お前のような子供とは話が合わんだろ。話題豊富な私との会話に惹かれるさ」

「班長は女子と付き合っちゃだめですよ。コンプラ違反です」

「権力を濫用しなければいいんだ。相手の自由意思で」

「班長じゃ無理です! 見向きもされない!」

「子供はおむつでも替えてもらえ!」

 だんだんヒートアップするのを、ノーマンに止められた。

「止めろ。イマジナリー女子を巡って喧嘩するな。虚しすぎる」

「「はぁぁ」」


          **


 それからも、探索の旅を続けること数週間。

 俺たちは、ついにTORIトリと遭遇した!


 恒星は、G型で黄白色の主系列星。

 TORIは、円盤の中心にドラム缶を突き刺したような形をしている。

 近接して、観測データを読み込む。


「おかしい。惑星の数が合わない」

 ノーマンが顔をしかめた。

 観測データによると、この恒星系には惑星7個あるはずなのに、6個しかない。

 第一惑星と第二惑星の間に、小惑星帯がある。

 小惑星帯は均等ではなく、一か所に大きくまとまっていた。


 地球化可能な惑星は、第二惑星となっていた。これも、おかしい。

 第二惑星は、ぎりぎりハビタブル・ゾーン(液体の水が存在する領域)を公転している。しかし、惑星表面に水はなかった。

 惑星が小さ過ぎて重力が弱く、さらに磁力も弱いせいで太陽風を防げない。

 そのために、気化した水を、吹き飛ばされてしまったのだろう。


 この第二惑星が「地球化可能」と判定されたのが解せない。これでは惑星改造を行っても、大気と水を維持できないからだ。


          **


 不思議に思いながら、第二惑星に赴き、地表をスキャン。

 すると、なんと人工の構造物を発見したのだ!


 着陸すると、人間が出てきた。赤い宇宙服。

 出るべきところが丸く膨らんだ、とても女性的なフォルムをしている!


 俺は仲間を見た。エディはいけ好かないが、このチームの班長だ。

 ノーマンの知識は、船を航行させるのに必要。

 そうなると、俺が行くしかない。


 脅かさないように、ゆっくりハッチをくぐる。

 武器を持っていないことを示し、身振り手振りで船内に招き入れた。


 赤い人は、宇宙服を操作した。船内は呼吸可能と判定されたようだ。

 宇宙服を脱ぐと、髪がふわりと舞った。金髪の美人だ!

「私の名前はアルフィン。あなたたちは、どこから?」

「惑星探査公団から。地球化可能な惑星を探しに」

「カン財団ではないの?」

「財団は、何百年も前に瓦解したよ」

「そうなの・・・私たちは財団の惑星探査時に、第二惑星に植民した人々の末裔よ」

「こんな、乾いた星に?」

「ここは第三惑星だったの。第二惑星は砕けた。植民地は壊滅したわ」


 アルフィンは船内を見渡した。

「私と仲間を、惑星探査に加えてもらえませんか?」

 俺は一も二もなく叫んだ。「もちろんいいとも!」


 するとエディが制止してきた。

「いやだめだ。彼女は公団職員じゃない。そもそも、身元の分からない人物を、活動に加える訳にはいかない」


 ノーマンが警告を発した。

「外に、もう一人いる」

「撃たないで! 私の仲間のマリモよ」


 マリモも船内に入ると、宇宙服を脱いだ。黒髪を後ろに束ね、痩身。

「助かるよ。もう食料も尽きかけていてね」

「ご安心を。困っている時はお互い様です」

 エディはそう言いながら、腕を差し出して、マリモと握手。

 ノーマンは呆れて言った。「さっきと言ってることが違う」


「もう1匹、仲間がいるんだ」

 そう言って、マリモが連れてきたのは、キジトラだった。

「この子の名前はサイモンだ」

「サイモン!」

 ノーマンが、嬉しそうに猫を抱きかかえた。


          **


「とりあえず我々がやるべきことは、失われた植民地のデータ収集だ」

「おおぉ」「おー」「はーい」「・・・」「にゃー」


 宇宙船コミット号の面々は、やがて、カン財団の秘宝を見つけたり、第二共和政崩壊の危機を救ったり、異星文明の遺跡を探検したりするのだが、それは後の話。


 こうして、俺たち5人と1匹の旅が、始まった。


【キャラ紹介】

■アルフィン:金髪巨乳。実は体内に異星生物が寄生している。権力の前では淑女だが、仲間の前では傲岸。無双の怪力の持ち主。

■マリモ:黒髪痩身。実は原形生物が人間に擬態。どんな姿にも化けられる。人間の形を維持するには、人間の体液を摂取する必要がある。

■サイモン:キジトラ。実は知性強化された天才猫。座右の銘は「沈黙は金」。口は出さないが手も出さないタイプ。

■カケル:コミット号のパイロット。元気いっぱいで煩悩にまみれた青年。

■エディ:コミット号の班長。平均的で煩悩にまみれた男。

■ノーマン:コミット号の航法士。頭が良くて純真な少年。

□コミット号:正式船名はコミット必達4765号だが、乗船チームが予算を達成したためしはない。涙滴型宇宙船。機関はエーテルリアクター。

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TORIの導き 蒼井シフト @jiantailang

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