アコーディオンと雪の夜

ジャック(JTW)

雪の降る街の広場にて

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 12月25日の夜、寂寞なる夜の広場にて、初老の男性ジェイソンがアコーディオンを奏でていた。その音色は悲しげであり、孤独な旋律が空気を満たす。彼の指先から奏でられる音色は物悲しく、寂しい雰囲気を湛えていた。

 人々はその音色に引き寄せられ、ジェイソンが弾く歌が何かと耳を澄ませた。

 それはなんと「Happy Birthday」だった。しかし、その曲はどこか哀惜の響きを放っている。


 *


 アコーディオンを抱えるジェイソンは、20年前に交わした娘との約束を思い出していた。

 彼の娘のノエルは、音楽の道を志す可愛らしい女の子だった。

 彼女は父親をとても尊敬し、彼と同じアコーディオン奏者になることを夢見ていた。


 ──"ねえ、パパ。誕生日には、毎年私の為にHappy Birthdayを演奏して。お願いよ"とノエルは言っていた。

 しかし、ノエルは20年前、自転車事故に巻き込まれて頭を強く打ち、亡くなってしまった。

 

 毎年、ジェイソンはクリスマスの日になると、ノエルの為に演奏を続けていた。ノエルが亡くなった広場で。


 毎年、演奏それを続けていくうちに20年もの歳月が流れたが、ジェイソンの心の中にはノエルの思い出と約束が生き続けている。


 やがて、群衆の中の一人が、ジェイソンの演奏に合わせてHappy Birthdayを歌い始めた。彼の歌声が広場に響き渡るや、周囲の人々も次第に歌に合わせて声を合わせ始めた。


 *


 雪の降る街の広場に、アコーディオンの音と、穏やかな人々の優しい歌が一つになって響いていく様子は、まるで祝福のような温かさを放っていた。


 

 アコーディオンの音色と共に、ジェイソンもまた娘のノエルのために歌い始める。

 彼の声は優しく、懐かしく、そして切なさに満ちていた。

 

 ノエルが生まれた日のこと。

 小さくて柔らかな手のひらと、指を握る力強さ。


 初めてハイハイした日のこと。

 周囲のものに興味津々で、何でも口に入れようとするものだから、慌てて周りのものを片付けた。


 初めて言葉を話した日のこと。

 初めて話した言葉は、『バイバイ』だった。

 仕事に出かけるジェイソンが、毎日そうやって声をかけていたから、その言葉を最初に覚えたらしい。


 初めてパパと呼んでくれた日のこと。

 小さな口を動かして笑ってくれたあの日。


 何気ないささやかな全てが、ジェイソンの宝だった。

 

 ジェイソンは思い出を辿りながら、アコーディオンを奏で、歌を歌い続ける。まるで昨日のことのように思い出せる美しく優しい思い出に心を巡らせて、ジェイソンは涙を流しながらも、愛を込めて歌を贈った。


 その場にいた人々も、ジェイソンの歌声と涙に心を打たれ、静かな感動の空気が広場に広がっていた。その瞬間、ジェイソンの音楽は愛と記憶の優しい風景を描き出し、誰もがその美しい瞬間に心を奪われていたのだ。


 *

 

 周囲の人々は、ジェイソンの演奏が終わると、温かい拍手を送った。そして、彼らは事情がわからないながらも、ジェイソンに何か悲しいことがあったのだと察し、次次に慰めと心配の言葉をかけてくれた。

 

 今度は悲しみからでは無い涙をこぼすジェイソンに、小さな女の子が駆け寄ってきて、温かな缶コーヒーをプレゼントしてくれた。

 雪が降りしきる寒さの中、ジェイソンはその温もりを感じながら、涙を零して「ありがとう」と告げる。

 

 コーヒーをくれた小さな女の子は、母親と手をつなぎながら去っていく。

 彼女はくるりと振り返ると、大きく手を振り、ジェイソンに向けて「バイバイ!」と言って微笑んだ。


 *


 ジェイソンは、温かいコーヒーの缶を握りしめる。

 彼の演奏や歌に惹かれて、にわかに賑やかさを増した街の広場で、ジェイソンはもう孤独ではなかった。


 ジェイソンは、温かい缶コーヒーを飲み干すと、彼の演奏を待ってくれている群衆のために、今度はきよしこの夜をアコーディオンで演奏する。

 彼の演奏に合わせて、また誰からともなく合唱が始まり、朗らかな雰囲気が広場に満ちていった。


 クリスマスの夜は、賑やかに、温かく更けていく。 


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アコーディオンと雪の夜 ジャック(JTW) @JackTheWriter

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