第12話

 日が傾く頃、一通り街を見回り終えたサコットから今日は解散だと告げられた。

「明日も訓練所の方へきてくれ。じゃあ、また明日」

「分かました。あの、サコット様はまだ戻らないのですか」

 あわよくば訓練所まで一緒に、と思っていたからつい口が滑ったが、サコットの行動を探るなんて下品だっただろうか。早くも後悔が走る。

「んー、俺はちょっと外に用事が」

「この時間から外にですか?」

「まあ、日課なんだ、気にしないで」

 夕方から城壁の外にいくのが日課?

(あ、逢引とか? でも騎士は結婚を禁じられているし、じゃあ、何だろう) 

どんな日課なのか気になったが、これ以上探るのは本当に駄目だ、サコットにも自由があるのだ、さっきの後悔を反省にかえ、シキアは静かに頷いた。

「ん? いや、何か誤解させてる?」

「いえ何も探索しませんっ逢引とか思ってません」

「はは、ただの鍛錬だよ。訓練所ではなかなか一人になれないから、訓練所に戻る前に一人で鍛錬してから戻るようにしているだけだ」

 鍛錬。サコットが強いことは知っているが、一人でその強さを保つ鍛錬をしているのかとシキアは息を呑んだ。同時に沸き上げる欲求に、さっき反省したことが簡単に打ち破られていく。

「あの、サコット様の鍛錬、見たいです」

「駄目だよ。鍛錬なんて人に見せるものじゃないし、夜の外は危険で――あ」

「危険な場所に一人で行くんですか?」

 ますますついていきたくなる。サコットは魔法が使えないのだから、もしものとき、誰かがいなければ救援の要請もできないだろう。

「オレも行きたいです」

「違うって、危険なのはシキアが、だから。とにかく俺は大丈夫、ある程度の時間に戻らなかったら副長が探しに来てくれることになっているし。じゃあね、また明日」

 サコットは軽くとんとんと足で地を蹴って、まるで鹿のように軽やかに駆け去っていく。追いかけようと思った気持ちは一瞬で消え去った。あんな速さに追い付けるわけがない。魔法が使えないサコットは速さと手数で戦っているというのは知っていたが、こうやってまざまざと見せられるとその特別さに感嘆のため息がこぼれる。

「オレも、強く、なりたいな」

 瘴気の地で隊長となったとき、隊員を守る力だって必要なはずなのだ。隊員になるのは不良者ばかりで、中毒に強いとはいえ、影響がないわけではないと聞いている。あの場所で普通に動けるのはきっと、シキアだけだ。

「足手まといにならなければサコット様についていってもいいのかな」

 まずは、あの足の速さに追い付かなければいけない。明日は色々準備をして来ようと決意しながら、訓練所まで戻るとぐったりとしたウサミが出てきた所だった。

「あ、お疲れ様。サコット様と二人、どうだった?」

「街の見回りしてた。そっちは?」

「副長様は厳しい方だったよ。でも確かに僕はトークン様に付いた方が勉強になると思う。隊長と副長の役割って全然違うから」

 なるほど、この研修にウサミも来たのはシキアが人見知りだから、だけではないらしい。

「なんか、うん、頑張ろうね」

 ウサミが前向きに笑顔だったので、シキアも強く頷いた。

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