第22話:遭遇原作主人公
やってくるのは五月頭の連休。
俺は友人二人と主であるシズクをもてなすためにも学園の和室を借りたりと色々と準備を終えて……完璧な状態で開始時間をまっていた。
「我ながら今回の和菓子は出来が良いな」
今回用意したのは全部が自分で作った和菓子……というかお茶請け達である。
これらを作るために三日ほど前から仕込みをしたり無駄に高い材料を取り寄せたりとか色々苦労があったが……それはもう置いておこう。
「……色々誘いを断って、やっとだなまじで」
シズクや鏡月とのコネ作りやら、俺や滄波の従者になろうとする女子達の誘いをちゃんと断りなんとか四人だけで出来るようにしたこのお茶会。
本当ならグレイとかも誘いたかったけど、あいつらからすると荷が重いとの事であり無理に誘うのは悪いのでこういう形となったのだ。
「っとよし時間だな」
部屋に設置されている時計を確認して、時間になった瞬間のこと部屋の扉が開かれ見慣れた三人組が入ってくる。普段と違うことと言えば、鏡月と滄波が和国の着物を着ていて別の印象を抱かせてきた。
シズクは黒い和装そして対する鏡月は月色の和装であり、唯一の男である滄波は紋付きの着物に袴といった装いだ。
「合わせたんだな」
「そりゃねー……せっかくならって感じだよ」
軽口を交わしてから俺は正座して待っててくれてる三人のために抹茶を用意する。皆がそれを食べながら談笑していたのだが、少ししてから滄波が何かに気になったのか口を開いた。
「これ全部手作りだよね? ここら辺に和菓子屋なかったし既製品じゃないでしょ」
「一応そうだぞ?」
「気合い入りすぎよ……」
「やはりカグラの作る和菓子は美味だな……流石は我の伴侶だ」
「そんなに喜んでくれるならよかったよ」
その後は皆で学園での出来事を話しながらも時間が過ぎていき、問題なくお茶会が進み――何事なく終わる筈だったんだが……。
「あんたみたいな平民が参加できるわけないでしょ!」
「で、ですが私も招待されて……」
「関係ないわ、身の程知りなさい!」
外から聞こえてきたその声に俺達の意識は持って行かれた。
……この学園で聞く平民という言葉、それに当てはまるのは俺か主人公であるリィンのみ。騒ぎに首を突っ込む必要はないが、流石にあの言葉は身に余るので俺は部屋から出て顔を出した。
そういえば詳しくリィンを見たのはゲームが最後だなと思いつつ、座り込んでいる女子生徒を確認すればそこにいたのは金髪碧眼の女性。
完全に項垂れていてその場を通る人達も無視を決め込んでおり、その側には先程破られただろう招待状が散らばっていた。
「なぁシズク」
「いいわ――呼んできなさい」
俺は一応シズクに確認を取ろうとしたのだが、それを聞くより先に彼女は俺の意図を察したのかゴーサインを出してくれた。
主に許可も取れたので俺は悲しそうにしているその子に近づいて――ゆっくりと声をかけた。
「なあよかったら俺等とお茶しないか?」
その言葉を聞いた彼女は、ゆっくりと顔を上げて俺を認識すると同時に心底驚いたような顔をした。
――――――
――――
――
「あの良いんでしょうか、私なんかがこんな場所にいて」
「大丈夫だ。シズクからの許可でたし、俺等も気にしないしな――それより何があってあぁなったんだ?」
「侯爵家の方に招待状を貰ったんです。でも向かう途中で相応しくないと言われまして――あとは……」
「酷いわね、最上級クラスに入れた以上それだけの格は保証されるはずなのに」
借りた和室でお茶を飲みながらも俺達四人は彼女の言葉を聞いていく。
最初は戸惑っていた彼女だが、俺が作ったお菓子を食べて次第に笑顔を取り戻してくれて、今では何があったかを話せるくらいにまで回復していた。
「それよりどうかしら、カグラが作ったお菓子は。美味しいでしょう?」
「え、これカグラ様が作ったんですか?」
「様はいいって……俺も元々平民だし、立場的にはリィンさんと同じだぞ」
「――え?」
俺が言った内容に心底驚いたのかぽかんとした表情を浮かべた。
……言ってから気づいたが、俺が平民だと知ってるのってラセツとかここにいる滄波達しかいないし、確かに驚くことではあるだろう。
この世界の貴族の条件としては固有魔法を持っている事ってのがあるし、入学式で俺の魔法を見ているのであれば貴族だと勘違いするのは当たり前の筈だし。
「ほんとうなんですか?」
「そうだぞ? ……俺ってシズクに拾われただけだし、色々あったがもとは平民だ」
安心させるためにもそう言って、俺は彼女に何があったのかを聞いてみるとにした。出来るだけ寄り添うように視線を合わせて話を聞いて分かったことと言えば、彼女はこの一ヶ月間一人だったということ。
確かに平民である彼女は、学園の男子生徒からすると彼女は主としての格が足りないように映るだろうし……関わっている暇のない相手になってる。
それを考えると悲惨というかなんというか……そんなことになってるとは思ってなかった。本来なら攻略対象である誰かと関わるはずなのだが、俺と滄波は関わってなかったし、この国の殿下と次期教皇はあのルナという少女にお熱。確かにそうなるのは分かるんだが……転生者である俺からするとそれが不思議でならなかった。
この世界の元になっている『徒カネ』には、一応強制イベントもある。俺は避けたとはいえそこで王太子か教皇とは出会いがあるはずなのだ。 そこで頭に浮かぶのはあのルナという少女……本当に何者なんだろうと思うが。
「あの、カグラ様?」
俺が黙り込んでいると心配になったのか、リィンさんが顔をのぞき込んできた。感じる感情的には自分が何かしてしまったみたいな自責の念だったんだが、これに関しては俺の問題なので気にしなくていいと伝える。
「まぁなんだここであったのも何かの縁だし、困ったら俺等を頼ってくれよ。俺は気にしないし、そこら辺は滄波達も同じだろ?」
「まーそうだね。僕もそこら辺には興味ないしさ。シズク姫もこういう子は放っておかないでしょ? 鏡月は言わずもがなだし」
滄波に同意を求めればそんな言葉が返ってきた。
それでもまだ不安そうなリィンさんは、やっぱり自信が持てないようで……。
「私は……本当にこの学園にいていいんでしょうか?」
「いいだろ、逆に何で駄目なんだ?」
「だって、私は皆さんに毎日ここには相応しくないって……言われて」
「そんなん無視でいい、リィンさんは学園長にスカウトされたんだろ? それに文句を言う奴がやばいって」
いや、割とマジでそれは思うのだが……学園長であるニーアさんにスカウトされたリィンさんの素質は本当に高いし、『徒カネ』をプレイした者としてもその将来性は信じている。
「それにあれだぜ? 結構見てるから覚えてるけど、君はいつも教室に残って勉強してただろ? 凄い頑張ってるの知ってるし、誇りもって良いって」
関わらないと決めていたとはいえ、この先の世界の行く末は彼女に握られているといっても過言ではないし、教室にいるときは気にかけていたのだが……彼女はいつも誰よりも勉強に精を出してたし一回忘れ物をしたときに教室に戻ったときがあったんだが、その時もずっと居残って頑張っていたのを覚えている。
「だから大丈夫。相応しくないって言われるのなら、見ていた俺が認めるからさ――ちゃんと私はここの生徒ですって言えば良いぞ。それに少しは助けるからさ」
「優しいんですね、カグラ様……あれ、すいません。なんか滲んで」
「あ、すまん。泣かないでくれって――三人とも? 俺どうすれば」
「……本当に変わらないわね、貴方は。ねぇリィンさん? カグラの言ったとおりこれも縁よ。なにかあったら私を頼りなさい?」
「そうだな、我も手助けしよう。そういうのは好かんからな」
「……はい。ありがとう、ございます」
そこで思ったんだが、主人公と悪役令嬢達が手を組むのに近いよな? ……やべぇ、本当にやばいコンビというかトリオ?
「そういえば、リィンさんはあのセリナって子に挨拶したのかしら?」
「挨拶……ですか?」
「えぇ、一応学園には暗黙のルールみたいなのがあるみたいなの。私達にはあまり関係ないけれど、この国に住んでいる貴方には必要だと思うわ」
「……ですが、私が近づけるんでしょうか?」
「そこは私の名前を貸してあげる。今度私を交えてお茶会しましょうか。カグラが助けるって言ったのだから、責任は持つこと――彼女の好みを調べるのは任せたわ準備もよろしくね」
自分で言ったことだし、了解と告げた俺は……少し作戦を練るようにして、あのセリナ嬢の好みを探る任務について考えることにした。
「じゃあ今日はお開きね、次のお茶会についてカグラの準備次第だけど……誘うことについては任せなさい?」
そうやって、とても頼もしすぎる悪役令嬢であったシズクが主人公のリィンを助けるという……ある意味歴史に残るレベルの事を見届けた俺はこれからどうなるんだろうと、心底思った。
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