第15話:入学準備


「そういえばそろそろ入学の時期よね」


 その日の始まりはそんな一言からだった。

 ……いつものように食事を運び、シズクの業務を手伝って鍛錬をするはずだった一日は、その一言で変わることになった。


「そういえば、一ヶ月後だな――なぁシズク今から下級クラスにでも」


 その話というのは本編の舞台であるステラ学園の事。

 やっぱり色々考えて下級のクラスがよかった俺はそう言ったのだが、それは無情にも却下される。


「駄目……というか無理よ。貴方が今なんて呼ばれてるか覚えてるかしら?」

「……やり過ぎた自覚はあるけどさ、シズクまでそう言うなよ」

「ふふ、私の従者は強いものね――でも貴方は貴方のままだもの、気にする事ではないでしょう?」

「……どこか行くの?」


 俺たちの会話に入るように金平糖を食べていたイザナがそういった。

 そんな彼女の頭を一度なで、俺は肯定するように頷いた。


「ほら、前に話しただろ? ステラ学園ってとこに通うんだよ俺等」

「……私は一緒?」

「当たり前だろ」

「ならよかった……どんなところなの?」

 

 そう聞かれ返答に少し困る。

 ……俺としてはゲームの知識としてどういう学園かを知ってるが、通ってない段階で詳しいことはいえないからだ。


「そうね、アステールって国にある学園で各国の王族や貴族が通う場所ね」

「……大変そう」

「そうねイザナ、確かに大変そうだけど楽しいはずよ? 沢山人が集まるんだもの」


 少し含みのあるように笑うシズク。

 それに少し肝を冷やしながらも、俺は改めてあの学園に加え俺等が留学する国の事を思い返す。


 アステールという国は世界の中心にあるとされる国であり、この世界のマップ的に言うとそれを囲むように数多くの国が存在しているのだ。

 なんでも世界を救った国とかいう実績を持っている大国で、この世界の中でも大きい三つの国を束ねている的な場所。で、有事の際などはそのアステールが主要となっていろいろな事柄に対応する感じになっている。


 あと大事なことと言えば、『徒カネ』のメインルートの国でありカグラルート以上にボリュームがあり、かなり大変なルートぐらいか?


「……二人はなんでそこに通うの?」

「王族の義務ね、十五になったら従者探しとして通う必要があるの」

「でも、カグラは従者」

「そうね、だから通う必要はないのだけど……魔法を学べるっていうのと、カグラと学生出来るから、気になったのよ」


 恥ずかしがる様子もなくそういう主。

 その言葉にこっちが照れながらも顔に出さないように気をつけて、俺は話題を変えるために咳払いをした。


「というか準備とかしなくていいのか? 留学するなら荷物とか送った方が」

「もう送ってるわ、そういうカグラこそ試験があるけどどうするのよ?」

「……勉強はしたぞ、一般魔法も結構頑張ったし」

「そう、それならこれも頼めるわよね」

「……嫌な予感しかしないんだが」


 俺がそう伝えれば、彼女はクスクスといつもの笑顔を浮かべてきた。

 大概こういう場合は何か無茶振りをされるのでそう言ったのだが……その次に言われたことは今までの中でもかなりの無茶な内容だった。


「なに簡単よ、入学試験は首席で合格しなさい?」

「……よしシズク、ちょっと話し合おうか」

「何よ、私の従者なんだからそのぐらいは出来て当然でしょう?」

「……俺、目立ちたくない」

「今更過ぎないかしら? 貴方この数年で和国の災害を何個鎮めたのよ」

「四つ……ぐらいか?」

「この間の黒金百足も含めれば五つよね?」


 ……いや、言い訳をさせてくれ。

 俺はこの三年間で俺のルートで起こる問題を先に潰しただけなんだ。カグラルートは戦闘が多めのシナリオであり、割と簡単に和国が滅ぶ可能性のある戦闘ばっかり。

 だからシズクの安寧のためにも倒しただけであって……名をあげるつもりとか一切なかったんだ。それに目立つの嫌だし。


「貴方の功績を考えると下手な成績で合格されると和国が下に見られるわ、だからこれは命令。完膚なきまでの一番を取ってきなさい」

「……仰せのままにシズクお嬢様」

「無茶は言っている自覚はあるけれど、貴方なら出来るでしょう?」

「やるにはやるけどさ、無理でも怒らないでくれよ……」

「全力を出してくれればいいわよ、それなら誰も文句はないはずだからね」


 それを伝えられて頑張らないといけなくなったので、俺はこの先の一ヶ月が勉強漬けになることが確定した。前世から勉強は苦手だし、この世界特有の魔法理論も今以上に覚えなきゃいけない地獄に頭を痛めながらも……シズクとの学園生活が楽しみだった俺は少し頑張ることを決めた。

 

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