第6話:帰還

 ……夢を見ている。

 微睡みの中で誰かと集まりゲームをする夢を見る。


『ばっかだなー! やっぱり一番可愛いのは主人公のリィンだろ! だから君はモテてないんだよ!』

『……は? シズクこそが至高だろ? 頭沸いたか?』


 思い出すのはそんなくだらない話。

 友人と馬鹿やりながらそんな事で盛り上がり……なんというか、心の底から笑い合う。横に座るそいつを軽く小突きながら、俺も俺で言葉を投げる。


『そういうお前はなんで逆ハールートばっかり狙うんだよ? ……純愛過激派だったはずだろ』

『ふっそんな事も分からないなんてやっぱり君は馬鹿だね。まぁ仕方ない、ボクの崇高な夢を語ろうじゃないか!』

『いや……うるさそうだからいい』

『酷くないかい!? 聞いたの君だよね!?』

『ははっ』

『ボクを笑うなぁ!?』


 そんな会話を覚えている。 

 前世の友人との他愛もない馬鹿みたいな記録だ。

 思えば前世のことを夢に見るのは何時ぶりだろうか? ……遠い昔の様で、何よりそれはとても大切な記憶で――それは手を伸ばしても戻ってこない宝物だった。

 


 陽の光を感じ目が覚めると外にいるのか少し冷たい風を感じる。

 それと同時に少しひんやりとした何かを枕にしている事に気付いた。

 そして見上げれば……虚ろな瞳と目が合って、ぱちくりと数回互いに瞬きを繰り返す。


「あ……カグラ起きた」

「――おは、よう?」

「うん……おはよう。今は外だよ、カグラ」


 状況的に膝枕されているのは分かるんだが……なんで俺は外に出ることが出来ているのかが分からなかった。最後の記憶では俺は完全に鎖に貫かれた筈で、なんというか死ぬくらいは覚悟してたから。


「わからない……けど、カグラと手を繋いで壁に触ったら出れたよ?」

「――って事は俺は助けられたのか……ありがとなイザナ」

「……もう一回言って?」

 

 俺を膝に乗せる彼女は、礼を言われたあとでまた数回ほど瞬きをして……それからそんな事を言った。相変わらず無表情な彼女だが、なんというか少し嬉しそう。


「ありがとう?」

「やっぱり暖かい。感謝って凄いね」

「……それは、どういたしまして?」

 

 少しぎこちない会話。

 それに少し笑ってしまいながらも、俺はいつまでも彼女の膝の上にいるわけにもいかないので、そこから退いて彼女に向き直る。


「えっと……こうやって外に出れたわけだけど、どうだ外の景色は」

「……綺麗、だね。青くて緑がいっぱいで凄く久しぶりに見る気がする」

「そうだろ? ――で、改聞くが。俺と一緒にこないか?」

「他に宛てもないし……そのつもり、よろしくね? カグラ」

「おう、よろしくだ。とりあえず船があるからそこに向かうんだが……俺ってどのぐらい寝てたか分かるか?」

「……わからない」


 聞いてみて思ったが、ずっと深層にいた彼女に時間を聞くのは酷だよなと反省する。とりあえずここに来た三日後に船が迎えに来る筈だったので、間に合ってると良いんだが……。


「あれというか、社は?」

「なく……なった?」


 今の場所を確認するように後ろを見ればそこにあったはずの社が完全に消えていた。今ここ場所にあるのは社の消えた境内のみで――アレがあった痕跡として階段に幾つも設置されてる鳥居しかない。


「流石迷宮、訳わかんないな」

「……それで、いくの?」

「あぁ、待たせているかもしれない――あれ、というか刀は?」

「私の……中?」

「えっと、それはどういう?」


 そういえば完全に目的の物であった刀を忘れていたから所在を聞けば、かなり意味の分からない答えが返ってきた。

 言った彼女もいまいち分かっていない感じだが……すぐに何かを思いついたのか、俺の手をぎゅっと握った。

 ……すると、その次の瞬間にイザナの姿が消え俺の手に鞘に収められた刀が握られていた。


『こんな、感じ』

「……すげぇなファンタジー」


 ちょっと意味が分からないが、つまりイザナが刀って事で良いのか?

 ……いや、待て待て。かなり意味が分からない。え、つまり何? ゲームで俺は彼女を振り回してたって事か? いや……なんだそれ。

 

『移動も楽だし、これで出発』

「俺はまだ飲み込めてないんだが……」

『がんばろう』


 彼女は自分が刀である事を完全に受け入れているのか、そんな事を言った。 

 不思議と頭の中に軽くガッツポーズをするイザナの姿が浮かんだが、なんとかそれを置いて頭が痛くなりそうだったから何も考えないことにした。


「じゃあ、この島とはお別れなんだが……未練とかないか?」

『特に無い』

「じゃあいいか。なら行こうか」


 そう言って刀改めイザナ刀を腰に差して俺は階段を降りきり最後の鳥居をくぐる――そしてそのまま森を抜けようとしたのだが、僅かに何かの気配を感じた。

 殺気でもなく、敵意すら感じない何かの視線。 

 気になって後ろを振り返り見てみれば……そこには無数の影があった。


『どうか、彼女をお願いします』


 そしてそんな言葉を聞いたかと思えば、その影達は消えていき何も無かったように静寂が場を支配する。

 ……もしかして、あの社にはもっと秘密があったのだろうか? そう思うも、既に消えたあの場所を探索する事なんて出来ない。 

 

『どうしたの?』

「……いや、なんでもない」


 イザナは気付かなかったみたいだが……さっき聞こえた声からは優しさを感じることが出来た。それがどうしてなのかは分からないが、俺は絶対に忘れてはいけないなと思い……今の言葉を記憶に留めることにする。

 

「あぁ、カグラ君! 五日も帰ってこなくて心配しましたよ! でもよかったです。これで姫様の所に帰れますね!」


 そして、俺は何事もなく船の場所に辿り着き、この島をあとにした。

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