『チュンチュン』

苺香

第1話

「あぁ。会議なんて、ほんと時間の無駄。だいたいさぁ。越田部長は締める役割だから、もっと前に出るべきだよ。あんなのじゃあ何も決められないってーの」

「ほんとに、自分の意見は仰らないし。横で口論していても、見て見ぬ振りですけれど。何かご自身の意見はお持ちなんだしょうか」

「自分の意見あるのかなあ。どうだろう。

……あっつ!!越田部長は永世中立国!!」

「スイッツランドですね。越田部長はス・イ・ス。テーマソングは”おおブレネリ”登場曲まで決定しましたね」

「”あなぁたのおうちはどこ~♬”違うよ。決めなきゃいけないのはプレゼンのテーマだよ。そういえば、あの人、うち何処?」

「多分、ド田舎ですよ。駅からバスで二十分って仰ってたからきっと結構な村社会ですよ」

「だから押しが弱いのかぁ。根っからの農耕民族だね。和が大切」

「お家ではどんなお父さんなのでしょうね。

”誰のおかげで飯が食えていると思っているのだ。”なんて仰ってたりしたら……怖いですね」

「恵子ちゃん。それよりもっと怖いのはね。木馬に揺られて”んんん―――”」

「もうっ。それは冬彦さんでしょ」

「わかってくれた~。さすがだね」

「何がさすがですか」

「だいたい、恵子ちゃんっていくつ?結構、いっていると聞いたけどね」

「誰に聞いたのですか。……一番怖いのは噂ですね」

「そうだよ。噂って怖いよ。特に村社会はね。俺も高校卒業まで居たけど、何でも次の日には村全体に広まっているの。俺が引き籠っていたのも、みんな知っているの」

「課長、引き籠りだったの?」

「そうだよ。探してたんだよ。哲学者だよ」

「何を探してたんですか?」

「生きる意味だよ」

「また、大きな議題ですね。”それより、僕と踊りませんか~♬夢の中へ夢の中へ”って井上陽水も歌ってますよ。踊ればいいんじゃあないですか」

「じゃあ、一緒に踊ろうか」

「お断りします。それより、今度のプレゼンのテーマ、早く決定してくださいよ。仕事が進まないですけど」

「それは、越田部長が煮え切らないから」

「もう。なんで、あんな人が部長になれたんだろ」

「マイナス評価がないからじゃあない」

「マイナスがない??」

「目立たず騒がず淡々と。……持点があるの。入社時点で。それで、失敗したら引いていかれるの」

「減点方式ですね。私、現在、持点どれくらいですか」

「ゼロじゃねぇか。言いたい事、全部、言うし」

「生まれつき、頭の中と口の距離が近いんです」

「そうだね。無茶するもんなあ」

「そうだね。じゃあないですよ。熱意、ですよ、仕事に対する熱意」


「美絵さん。もう、聞いてくださいよ。あの会議のあと、廊下で越田部長のお尻叩いちゃいました。ちゃんとゴールを決定しておかないと何も進まないって。」

「越田さん、何て?」

「もうねっ。私の話、聞いているのかどうかも怪しくて、”どうせ、カラスがカーカー鳴いているくらいにしか思ってないでしょ”って言っちゃって。僭越でしたっ」

「フフフ。で??」

「そうしたらですね。越田部長、チュンチュンって。」

「はぁ。越田さんらしいわ」

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