第4話④「王様の正体」

君たちの・ ・ ・ ・首にも ・ ・ ・嵌めたんだ・ ・ ・ ・ ・!」


 僕が叫んだ瞬間、王の間の空気が凍りついた。


「は?」


「……え? これ?」


「マジで?」


 まず最初。

 生徒たちが互いの首を指差し、目をパチクリとさせ――


「……隊長っ」


「おいおい、あんな世迷よまごとを信じるな、そんなことあるわけがないだろう」


「でも……でもっ!」


 次。

 守備隊たちが半信半疑で言葉を交わした――


「はっ……はっ……はっ……!」


 最後の最後。

 みんながテンパる中、シンゴもまた顔を青ざめさせた。

 顔をひきつらせ、ふるふると震える指を僕に突き付けると。


「おまえ何を言ってんだ!? そんな適当ぶっこいたってなあ! 周りは誰も信じちゃくれねえんだよ!」


「……わかってる、いま証拠を見せてあげるから見てて」


「は? 証拠?」


 立て続けの衝撃と、僕の自信満々な態度。 

 緊張と疑心暗鬼が十分に全員に行き渡った、その瞬間――


「シャルさん! 今だ!」


「はい喜んで!」


 打てば響くとばかりに反応したシャルさんが、錫杖しゃくじょうを天高く掲げた。


「『主よ! 闇に潜む魔の者どもの姿を光の元に露わにしたまえ!』」


 夜空に輝く星の意匠をかたどったのだとされる杖の先端部――彼女らの崇める宗教の主神ミリア様の象徴――が、黄金色の光を放った。

 目を焼くような強烈な閃光がレーザー光線のように伸び、王様の胸を貫き――

 

「う……ぐ……あああああっ!?」


 胸を貫かれた王様はよろめいたかと思うと、堪らず玉座から転げ落ちた。

 

「国王!」


「陛下!」


「む、謀反だ! 誰かあの者たちを捕らえろ!」


 当然、守備隊は大騒ぎだ。

 次々に剣を抜き、僕らに斬りかかろうとする人もいるが――


「ふ……ふはっ、ふはははははっ!」

 

 苦し気にうずくまっていた王様が、高笑いを上げながら起き上がった。


 起き上がった時には、別の存在になっていた。

 でっぷり太った王様ではなく、土気色の肌をした怪物に。

 四メートルはあるだろう巨体の半分を顔が占める、とにかく顔がデカい印象の化け物になっていた。


「よくぞ見抜いたな! 証拠を集め、ここぞという場で正体を暴露する! その手際も見事だ! いかにも我は悪魔貴族! その最上位階たる『七罪ななつみ』! 位階七位の『暴食ぼうしょくのグラトニー』よ!」


 一方的に名乗りを上げると、グラトニーと名乗る悪魔貴族は一歩を踏み出した。

 手近にいたシンゴを見下ろすと、じゅるりとよだれを垂らした。


「は……? え? 王様……じゃない?」


 ここまで来てもまだ状況が呑み込めていないのだろう、シンゴはポカンと口を開けたまま立ち尽くしている。


「シンゴ! 逃げて!」

 

 僕は必死になって叫んだが、シンゴは微動だにしない。

 剣を抜くことすら出来ずに立ち尽くし、そのままバクリと呑み込まれてしまった。

 頭から丸ごと、ヘビが獲物をそうするように。


「きゃあああああーっ!?」


 コマちゃん先生の悲鳴が、凍り付いた王の間の空気を切り裂いた。

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