【KAC20246】春休みのバイトは戦隊ヒーローの下っ端悪役

ぬまちゃん

戦隊ヒーロー、バードマンの正体は?

「とりあえず、こっちでしょ?」

「うーん、そうかなあ? やっぱりこっちじゃないか」


 卒業式も終わって先輩たちを送り出し、長い春休みに入った幼馴染の彼女と彼。高校生活の大部分を占めている演劇部のスキルを活かすべく、アルバイト急募のネット画面を見てて、あーでもない、こーでもないと悩む。


 すると見つけた面白そうなバイト。

 ──急募! 子供向け戦隊ショーの隊員。


「これこれ、これにしない?」

「お、面白そうじゃん。それにもしかしたら、ヒーローにも会えるかもな」


 * *


「ふーん、君たち高校生か。じゃあ、一番後ろでキーキー騒ぐ悪の組織の下っ端戦闘員かな。向こうの部屋で、黒いマスクとタイツをもらって着替えてね」


 喜び勇んで募集している劇団に行くと、脚本と振付を担当しているおじさんは、彼らをちらりと見てから関心なさそうに奥の部屋を示す。


 がっくりとした彼らは、廊下を歩いている卒業したばかりの演劇部の先輩を見かける。


「先輩! どうしたんですか、こんな場所にいるなんて」

「ああ。お前らには秘密にしてたんだけど、実は前からバイトしてたんだ。顔は出せないけど演劇の勉強になるからな」


 先輩は、後輩の彼らを見つけると驚いたようだ。


「たとえ悪の組織の下っ端でも立派な演者だ、がんばれよ」 

 後輩に声をかけると、彼は急ぐようにして別の部屋に入っていく。


 * *


 トゥ! ヤァ!


 キーキー。

 ゲフッ、ガハッ。


 戦隊ショーが始まると直ぐに悪役の下っ端の出番だ。

 黒いマスクと全身タイツで身を包んだ彼らは、正義のヒーローに瞬殺されて舞台を後にする。

 タイツを脱いで、こんどは彼らは観客席の背後から戦隊ショーを応援する側にまわる。舞台では、正義のトリ、バードマンが縦横無尽に悪を倒していた。


「やっぱり、ヒーローかっこいい」

「ああ。俺もいつかヒーローやりたいな」


 * *


「結局、トリあえず、だったね」

「うん。さすがに下っ端悪人のバイトに、正義のヒーロー、バードマンは会ってくれないさ」


 しょげていた彼らに、後ろから先輩が声をかけてきた。

「お疲れ! 倒され方良かったよ。また次もよろしく」


 先輩のポケットから、トリのくちばしが出ているのに誰も気が付かなかった。


(了)

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