JKと生

辺理可付加

彼女たちはまだ、流行っていない。

「2名さまでよろしかったですか?」

「本当は4人いたんですが……」

「はい?」

「2名ですっ! 2名で大丈夫ですっ!」


 土曜日の夜。ここは新宿の鳥●族。

 一番ヶ瀬いちばんがせ天弓あゆみ御香宮ごこうぐうはじめは、テーブル席へ案内された。


「いやぁ〜、はっちゃん! 今日はお疲れ!」

「お疲れ〜」


 席に腰を下ろし、おしぼりで手を拭く二人。


「ライブ大盛り上がりだったねぇ。あ、ギター大丈夫? カバンこっち置く?」

「大丈夫大丈夫」


 一連の会話でお分かりと思うが。


 そう。二人はインディーズ女子高生音楽グループ

『月極バンド』

 のメンバーなのである!


 天弓がドラムではじめがギター。

 ちなみにバンド名の由来は全員が『月極げっきょく駐車場』って勘違いしてたから。

 残りのメンバー。ベースの高田馬場たかだのばばすずは、補修をサボってきたのが帰りに教師に見つかり連行。

 ボーカルの北大路きたおおじ御幸みゆきは、帰りに『おっ●っと』のカニを食べ甲殻類アレルギーで卒倒。

 なので今は二人しかいない。

 誤解のないよう記しておくが、『おっ●っと』のアレルゲンは乳と小麦。『特定原材料に準ずるもの』は大豆と鶏肉。


「お腹すいたね! 何頼もっか!」

「そうだね〜」


 二人してタッチパネルを覗き込んでいると、



「じゃあ、とりあえず生だろ?」



 通路挟んで向かいの席から、いかにも陽キャな男性の声。

 仕事帰りか、スーツの男女4人が生ビール4つを注文する。

 あまりにも楽しげな様子に、思わず視線が釘付けになる。

 そのまま魂を引っこ抜かれたように、天弓はポツリと呟く。


「ねぇ、はっちゃん」

「何?」

「私たち未成年は、何を頼んだらいいの?」

「えっ?」


 彼女はタブレットをドリンクメニューに切り替え、はじめの方へ突き出す。


「だって私たちは未成年! JK! アルコールは御法度なんだよ!? 『とりあえず生』は禁止されてるんだよ!?」

「いや、ソフトドリンクあるでしょ」

「JKがナマとか完全にアウトじゃん!」

「そういうことおっきい声で言わないで!」

「私なんか変なこと言った?」

「おまえ自身が変なんだよび⚫︎ち・ざ・ふ⚫︎っく」

「まぁ! 外でそんな卑猥な! はっちゃんのスケベ!」

「おぉ、もう……」


 内容に関わらず、外で大声はお控えください。


「で、そういうは何頼むの」

「やめて、その呼び方はやめて」

「カ●ピス? 特濃カ●ピス?」

「烏龍茶でいいでしょ!」

「タクシードライバー?」

「……スクリュードライバー?」

「だったっけ」

「それお酒だよ。未成年頼めないよ」

「なんで!? ジョディが13歳で12歳の売春婦演じたんだよ!? 大丈夫でしょ!」

「それはタクシードライバーだよ!」

「最初からそう言ってんじゃん!」

「あーもう!」


 そもそも鳥●族にスクリュードライバーはない。

 まぁそれはいいとして。

 はじめはヤケクソ気味にタブレットを操作する。


「私は烏龍茶でいいから! 弓ちゃんも早く決めて!」

「このキッズ・烏龍茶じゃなくていいの?」

「ケンカ売ってる!?」


 彼女は天弓からタブレットを奪うと、彼女の方へ突き返す。


「さぁ! 弓ちゃんは何注文するの!? アルコールか!? アルコールなんか!? あ゛ぁ゛!?」


 すると天弓はスマホをいじりながら、


「私は無料のお冷でいいかな。未成年だしお金ないし。先に串選んじゃっていいよー」

「こいつ……!」






 ちなみに翌日、鈴にこの話をすると


「私は豚バラかな。『トリ会えず』だからね!」


 とか意味不明なことをほざいた。

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JKと生 辺理可付加 @chitose1129

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