因習村祠破壊RTA

ゼン

田舎では特定の場所を独特の言い方で表すことがある

 「絶対に、裏の山には入ってはならん……」


 遊びに行く僕を呼び止めたじいちゃんは真剣な顔でそう言った。


 「いいか、蓮。裏の山には絶対に入ってはいかんぞ」

 「うん、わかったよ」


 じいちゃんは繰り返しそう言った。あのじいちゃんがここまで念を入れている。相当危険なのだろう。


 「蓮、絶対に入ってはならんからな」

 「うん、わかった。絶対行かないから。僕遊びに行ってくるね」


 絶対にそこには行かないようにしよう。そう心に決めて僕は一歩を踏み出そうとした。


 「蓮!」


 じいちゃんの声が縁側に響く。じいちゃんが大声を出す事なんて滅多にない。冷汗が背中を伝った。


 「……絶対に裏の山に入ってはならんからな!」


 ……。


 「いやわかったって、行かないから」

 「絶対に!裏の山に入ってはならん!」


 神妙な顔をしたじいちゃんが僕を見つめている。おい。このじいさんこれを言いたいだけだろ。


 「絶対に!入ってはならんからな!」

 「もうわかったって!その話何回目!?早く遊びに行かせてよ!」


 じいちゃんはクッと苦しげな声を上げ、こちらを見つめた。なんなんだこのじいさんは。


 「……裏の山に入ってはならん。ましてや!麓にある祠は絶対に壊してはならん!」

 「それか!?それが言いたかったんだな!?」


 このじいさん祠の事を言いたいのにこっちが興味を示さないから自分から言い出しやがった。なんなんだ本当に。


 「わかったって絶対行かないから!だから友達と遊びに行かせてよ!」


 じいちゃんは残念そうな顔で頷くと、一つだけ聞かせてくれと言った。早くしてくれ、友達を待たせているんだ。


 「蓮、友達って誰の事じゃ?この辺に蓮に近い歳の子はいないはずじゃが」

 「え?ずっと居るじゃん。玄関で待ってるの気づかなかった?」


 変なじいちゃん。僕は彼のもとに駆け寄った。


 「待たせてゴメン!じいちゃんの話が長くってさ」


 蝉も鷹も黙りこむ中、彼はニコリと笑って僕の手を握った。


 「トリあえず,おジイちゃんにアワせてよ」

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