【KAC20246】「とりあえず」でもいいんじゃない?

雪うさこ

とりあえず


 おれの人生は「とりあえず」が多い。田舎で生まれた。父さんも母さんも普通の鳥だった。けれど、なぜかおれだけ人の言葉が話せた。だから鳥の仲間から仲間外れにされた。


 変な奴だって。


 仕方ない。だからおれは、「とりあえず」都会に出てみることにした。都会に行けば、もっと色々な鳥がいるに違いないって思ったからだ。だから、おれは都会に行ってみた。


 都会っていうのは、やっぱり色々な鳥がいた。けれど、おれみたいに言葉を話せる鳥はいなかった。「とりあえず」靖国神社っていうところで生活をすることにした。


 ある日、そこで暴漢に襲われそうになっている人間の男を見つけた。別に知らんぷりしてやってもいいけれど、「とりあえず」助けてみることにした。


 人間はどうやら、おれの容姿に弱いらしい。リーゼントの男たちは、おれを見た瞬間、鉄パイプを捨て、おれのことを可愛がってくれた。「とりあえず」成功。


 リーゼントと仲良くなった後、助けた男に名刺をもらった。男は「カドカワ」という会社で働いているという。おれは「とりあえず」その名刺をもらった。


 それから数日後。カドカワの男がおれのところにやってきた。そして、会社のマスコットの仕事をしてみないかと言った。別にどうでもよかったんだけど、おれは「とりあえず」その仕事を受けてみることにした。


 カドカワの仕事は人間の世界ではブラックというそうだ。日当はドングリ三つだった。SNSへの投稿、写真の撮影モデル、色々なことをやらされた日も、ドングリ三つは変わらなかった。けれど、それでもいいかなって思った。おれは「とりあえず」カドカワで働き続けた。


 それから数年。おれの元に、ファンレターとドングリが届くようになった。カクヨムというサイトで、おれのことを気に入ってくれた人たちが増えているそうだ。


 ああ、そうか。「とりあえず」で生きてきた鳥生(人生?)だけれど、それでもおれのことを見てくれている人がいたってこと。まあ、悪くはない。


 鳥社会を追い出されたおれだけど、「とりあえず」諦めないで生きてきたおかげで、カドカワの同僚ができ、そしてファンもついた。おれのことを「とりあえず」気にかけてくれる人間ができたってこと。うん。「とりあえず」もいいもんだ。


 あんまり深く考えるのはよくない。ここに言いたい。みんな、「トリあえず」やってみればいいんじゃない? でも、そろそろドングリは六つに増量して欲しいな! カドカワさん。 ——とりあえず。


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