第12話

本部まで辿り着くと、アヤメさんを先頭にしてロビーを歩いた。アヤメさんは通りかかる同僚に軽く挨拶をした後、階段を登った。

旧時代にはエレベーターと呼ばれる人を運ぶ箱があったらしいのだが、そんなもの今はない。

階段を登り、本部長がいるであろう執務室に到着した。

アヤメさんがノックをして呼びかけた。

「本部長、アヤメです。入りますよ」

中から返事は聞こえなかった。了承の返事は返って来なかったがアヤメさんは問答無用で扉を開ける。

部屋の中央に執務机がある。この部屋の主は黒い革張りの椅子に腰掛け、アイマスクをしながら寝ている。、、、、、、、、ん?寝ている?

「この人が本部長なの?」信じられなくて隣にいるアヤメさんに聞いた。

「そうですよ、、、、私も時々疑います」アヤメさんはいつも通りと言わんばかりに冷静だった。そして本部長の方へ行き、持っていたバインダーで本部長の頭を思いっきり叩く。

バコーンと、部屋全体に響き渡った。

「本部長、起きて下さい!貴方が呼んで来なさいと命じたのでしょう!?」

さっきまでの感情のない声は何処へ行ったのやら、バインダーで叩きながら怒るアヤメさんを見て目を疑う。

バインダーで叩かれても起きる気配がない本部長に呆れたのかアヤメさんは怒るのを止め、私を見て言った。「ルナさんの自動拳銃で本部長目掛けて撃って下さい。まずは起きてもらわないと、、、、」

その言葉に頭の中で疑問符が踊っている。撃つ?人を?そんなことをしたら死んでしまう。

「大丈夫ですよ、本部長には当たりません」アヤメさんは落ち着かせるように言う。

私は自分の銃を見た。右太股に巻き付けたホルダーにすっぽりと差し込まれている灰色の九ミリ拳銃。それを引き抜き、本部長の後ろにある窓硝子を目掛けて撃つ。窓硝子は粉々に砕けることだろう、、、、。

だが、窓硝子が粉々に砕けることはなかった。何故ならさっきまで寝ていた本部長が素手で銃弾の進行を防いだからだ。人間技とは思えない出来事に思考が停止した。

「いや〜、、、、危なかったね。もう少しで後片付けが大変だったね〜」銃弾を机の上に置き、ヘラヘラ笑う本部長。

本当にこの人が本部と支部をまとめる人なのか?

アヤメさんを見ると「ほらね」とでも言うように微笑んでいた。

「私はショウゾウ。こう見えても本部長だよ」

「ルナ、、、です」

本部長は笑みを浮かべ外套を羽織り、執務室の扉に手をかける。

「ついて来なさい」

本部長はそう言って、部屋を出て行く。私は慌ててついて行った。



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