幕間 ある性奴隷のケジメ1

Sideエル


 私はエル。

 元性奴隷。

 家族に売られ、変態ブタ貴族に買われた日からジル様に拾われる日まで、一日たりとも救済は無かった。



 その屋敷に連れて来られた日、私を含め四人の奴隷たちが並ばされた。

 皆、女。

 何をされるか、するか分かっている。


 やがてそのブタは現れた。

 

 一人ひとりゆっくりと裸にされ、汗や体液で汚れた私たちの身体を音を立ててベチャベチャと舐め始めた。

 そのイカレた目は悦び、汚汁を何度もかけられ、私たちにかけるように強要する。


 三日三晩、汚れたまま繰り返され続け、私は何度も飛ばされ務めた。

 やがて恍惚のブタは満足したのか、翌日からは屋敷にいる男どもの相手をさせられた。


 容赦のない暴力、人間性を疑う行為、穴という穴を拡張され、心も体も傷しかつかない。

 屋敷中のクソ野郎どもの忠誠を私たちの安い身体で買っているのかと思うと胸糞悪ったが、それ以上に私たちは壊れ病んでいく。

 

中にはブタのほうがいいと泣き出し、懇願する女もいた。

 

 私も何度も汚辱の中で揺らぎ、悔しいがブタに縋る夢も見た。

 夢には私を売った父や母、幼い時に可愛がってくれた思い出がよみがえったが、記憶が苦痛になるほど男たちに回され続け、そのうちに何も思い出さなくなったのでかえって助かった。


 僅か一か月の間で二人の若い女が捨てられた。翌月には新たに少女と少年が私たちに加わり、行為が繰り返されていく。


 半年もすると緩くなり、何も喚かない私に飽きたのか、更に下男の性欲と糞尿の捌け口にしか使われなくなる。

 ブタはそれを待っていたのか、なぜかボロボロの私にメイドとしての教育と礼儀作法を教え込み始めた。


 それが気まぐれで枠狂と分かっていても、私には玩具としての自分を忘れられる貴重な時間。ブタを主人と認め、救いを求めてしまう。

 また僅かな”人”としての希望の時間でもあった。


 

 その希望こそアイツの狙いだった。

 私に希望を抱かせ育てたのは、あらゆる恥辱をメイド服に隠し、客人にすまし顔で応接させ悦ぶ性癖を満たすためだった。


 客人が帰ると恥ずかしい言葉を吐かせ、私の卑猥な表現や態度でさらに興奮し、凌辱を繰り返す性癖。


 それは朝まで続き、意識が飛ぶころに裸のまま、また汚い地下に戻される。

 そして客人が来ると身体をブタの為に清め、また弄ばれる。


 私は心を無くさぬよう、人として死ねるようにひたすらに耐えた。

 そしてある日、私はブタの企みと隅々まで汚染された私をジル様はただ抱きしめてくれた。



◇◇◇



 ブタは裁かれることはない。奴隷たちを壊して遊ぶ破壊者。

 私は心を戻すと復讐に囚われた。


 ジル様はそれを優しく聞いてくる。


「具合はどうだ、エル」


「……わ、わかりません、でも……」


 ジル様に救われて以降、彼女は静養中の私のもとに毎日決まった時間に訪れ、浅い眠りにつくまで手を握り、ただ頷き聞いてくれた。


「あいつらを殺してやりたい」

「そうか。私はそんなことより君が生き抜いてくれたことが嬉しい」


 彼女の青銀色の瞳はまっすぐで、私を傾かせる。

 それでも希望は絶望しか生まない。

 簡単に受け入れるわけにはいかない。


 彼女も毒だ。なにもかも。


「エル、無理に信じなくてもいい。また深く傷つく怖さに勝てなくてもいい。急いではいけない」


 そういうと彼女は私を抱きしめ、頭をゆっくりと撫でてくれる。

 

◇◇◇


 この街に連れて来られ、三か月が経った。

 私は一歩も外に出ず、ずっとジル様の知り合いの家を間借りし、ティナちゃんやジル様、ブライ家の使用人たちが食事を運び続けてくれた。

 そして定期的に医師が診療にやってくる。

 傷は快方に向かっているようだが、心は冷たいままだ。



 

 性奴隷の私、無価値の私。

 生きている意味は彼らを殺めるため?



 だけどジル様を始め、ブライ家は私のために……なぜなんだろう。

 ある日、私はティナちゃんに聞いたら彼女は否定した。


「どうして? そうですね……私、人を見る目はないし、すぐ騙されちゃうから正直エルさんのために、ってあまり思わないんです。ごめんなさい」


 彼女の言い分はわかる。私も同じだ。

 それならなおさら、ここまで私に献身的になれるのだろうか。


「うふふ。私、バカだからそんな難しいこと深く考えないんです」

「え?」


「ジル様を信じているから、それでいいんです」


「……」


 私は何をしているんだろう。

 

 この三か月、ジル様はただ優しく、ティナちゃんは笑顔で。

 くだらない世間の話、この街のこと、人々の醜さと楽しさ。

 

 何一つ私に求めて来ない。

 ただ側に居てくれる。

 

 ある日、彼女は唐突に語りだした。


「実はね、私には小さいけど果たしたい夢があるんだ。引きこ……いや、この父の治める領地を豊かにしてのんびりとエルやティナたちと戯れながら幸せに暮らしたいんだ。……ただ富めばいいってわけじゃないんだぞ。貴族だろうと王族だろうと他国でさえ、どんな横槍でも干渉もされない強靭でしたたかな領地にしたい。どうだ、すごいだろう?」


 私は何を……。

 この人は……。


「エル、明日から私は屋敷で待つことにする。夢は植えたし、君はこの瞬間から新しい”エブリィ”だ。奴隷解放の手続きはしておく、気が向いたら来てくれ」


 

 こうして私は彼女に仕えることになった。

 やっとティナちゃんの言っていた意味が分かったが、決して今からでも遅くないだろう。


 彼女の夢は私の希望。

 そのためには厳しくもある導き手として彼女を鍛え、支え続ける。


 私にはやりたいことが五万とある。

 領内を歩きまわり、有能な人材を発掘し、彼女ための組織を作る。

 商会を起こし、資金を稼ぐ。街を興し、栄えさせる。

 どれも私にしかできない。あの人の役に立ちたい。


 復讐? そんな贅沢な時間は私に許されない。

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