第5話おれはこれから、どうすればよいのだ

 だからおれは今、呂布や張邈と共に、濮陽にいる。

 簡単だ。あいつを倒すのは。

 青州兵が突っ込んでくる。

 そこに呂布を投入すれば崩せる。

 あとはこの城にやつが入れば東門に火を放つ。

 やつは、焼け死ぬ。

 簡単だ。

 やつに残された都市はたったの三つ。

 それも荀彧と程昱が守っているだけだ。

 荀彧は潁川の名家出身のぼんぼんだし、程昱は年寄りだ。

 あいつらに何ができる? 何もできやしないさ。



「陳宮。おれはこれから、どうすればよいのだ」

 おれは呂布を見上げる。

 図体はでかいが、見た目は良い。

 武芸はこの中原随一といってよい。

 なんでこいつは、自分で兵を集めて、領地をとろうとしないのだろう?

 なぜかこいつは董卓を討った恩を袁術に売ろうとしたのだろう?

 もちろん袁術は、呂布を引き受けなかった。袁術は董卓を討てと呂布に頼んでないからな。

 そのあと呂布は袁紹を頼った。共に出兵して袁紹の敵を討った。

 しかし呂布はなぜか袁紹に、自分の兵を増やしてくれと要求したのだ。意味がわからない。

 そんなこともあり、呂布は居心地が悪くなったのだろう、袁紹のもとを去った。袁紹はやつを倒そうとして家来たちを差し向けたが、倒すことができなかったそうだ。怖いからな、呂布は。

 おれが答えないので、呂布はまた聞いた。

「おれは、何をすればいい」

 おれの胸の内に、今まで感じたことのないものが生まれた。

 それが何なのか、今のおれにはわからない。

 呂布は、途方にくれている。

 おれは指示を与えた。

「青州兵に突っ込んで、斬り散らせ」



 さあ、来るぞ。曹操が。

 入ってきた!

 おれは兵卒に命じて東門に火をかけさせた。

 もちろんおれは、安全な場所から見ている。

 東門が燃える。

 目の前では青州兵と呂布の軍勢が戦っている。

 笑えた。

 最高の気分だ。



 呂布が戻ってきた。

「青州兵を破った。やつらは、散り散りになった」

 前にも言ったが、こいつは戦うことでしか生きられない男だ。

 丁原を殺したのだって、董卓を殺したのだって、やつの意志ではない。

 だからおれはこいつと組んだ。

 うまくいかなければこいつのせいにできるからだ。

 つまり、おれが立てた策に落ち度はないことを他人に証明できる。



 だが、おれが喜んでいられたのもそこまでだった。

 曹操のやつは、逃げやがったんだ。

 しかもその年はいなごが大発生して、飢饉となった。

 曹操は濮陽を落とせなかった。

 おれは曹操に、何ができただろう。



「陳宮。おれはこれから、どうすればよいのだ」

 それは、おれがおれ自身に向けた問いでもあった。

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