第二十話 邂逅



 家まで逃げ帰って来たレイと胡桃はエレベーター前でぐったりとへばりこむ。

 今の二人を見れば、誰でも全力を使って走って来たとわかるだろう。

 ただし、例外を除いて────


「はぁ……はぁ……」


「胡桃疲れ過ぎじゃ無い?」


 俺は休憩なしで走り続けたが、全然疲れていなかった。何なら、ダンジョンに潜れるくらいの体力はあるだろう。


「はぁ……はぁ………だ、大丈夫……」


 胡桃は息を整えながら答える。


「全然大丈夫そうじゃ無いけどね。」


「はぁ………大丈夫だから。そうだ、レイが何処に行って何してたのか教えてよ…」


「私?私は胡桃を探して色んな所を見に行ってたよ。途中で、泣いてる子がいてね。話しかけたら誘拐されたよ。」


「え?…………今、何て?」


「だから!泣いてる子に話しかけたら誘拐されたの!」


 突如として言われたその爆弾発言に胡桃の脳がパンクする。同時に、クラッと来た頭痛は立ち眩みに起こるそれととても似ていた。


「うぅ…………」


「どうしたの胡桃?」


「ちょっと理解が追いつかなくてね……頭痛が…」


 胡桃は右手をおでこに当て、首を少し横に降りながら答える。レイは、何か自分が変な事でも言ったのかどうかを考えていた。


「泣いてる子に話しかけたら誘拐された………何か変だったかな。」


 俺は声に出しながら考える。


 おかしかったか?でも、事実だし……。他にどう伝えたらいいんだ?少女に誘拐されたから逃げていたの方がよかったか?でも……それは事実だけど……事実じゃ無いと言うか……


「あぁ……ちょっと落ち着いて来たかも。なんか、レイだからあり得るんだろうなって思ったら頭痛治った。」


「ねぇ!ちょっとそれど言う意味!?」


 レイが声を荒げる。それを見た胡桃はあははっと笑う。

今の二人は側から見たら、あの猫とネズミのアニメの様に、仲が良い親友の様に見えるだろう。

 そして、胡桃はしばらく笑った後、レイに誘拐して来た少女について聞く事にした。


「ねぇ、レイ?聞きたいんだけど、誘拐されて何してたの?」


「誘拐されてから………、うん、なんか言われたけど忘れちゃった。」


「忘れちゃったって……じゃ、じゃあ、どうやって逃げて来たの?」


「邪魔なものは全部破壊して逃げて来たよ!」


 無邪気な笑顔を見せてレイはそう言うが、胡桃はあちゃーと言いたげな動きでおでこに手を当て、呆れ顔をする。


「……ねぇ……レイ?」


「なぁに?」


「まさか……能力スキルは使ってないよね。」


能力ステータス?(数値の)暴力で押し切って来たけど……。」


「(スキルの)暴力で!?まずいよ!非探索者保護法で、ダンジョン外での能力の使用は禁止されてるんだよ!」


 非探索者保護法とは何なのだろうか、別に大した事は無いものだろう。


「別に大した事、無いんでしょ?それ。」


「いやいやいや!そんな事ないからね!破ったら最悪の場合死刑だからね!それ!………って言うか、そっか……知らないんだ……。」


「………死……刑…?」


 レイはピシッと石の様に固まる。まるで、ギリシアの石像、動くことのない絵の様に。


「非探索者保護法……それは、非探索者が探索者に一方的に被害を受けない為の法律でね、非探索者にスキル等を使用してはいけないんだ。もし破ったら、30年間牢屋行き、もしくは死刑が課される……」


「はぁっ………!!」


 息が詰まる。非探索者保護法が俺の首を絞めているからだ。いや、違う。自分で自分の首を絞めているだけに過ぎない。


「どうしよ、どうしよ、どうしよう……」


「だ、大丈夫だよ。バレなきゃセーフなんだから。」


「………えっと、こんな時に言うのも何だけど、その台詞を胡桃から聞きたくは無かったな。」


「え!?急に落ち着くじゃん…」


 そんな事を話していると、エレベーターの方からピコンッと音がする。気づいたらエレベーターは動いていた様で、エレベーターはちょうどこの階に着いたようだ。


「「あれ?何でこの階に?」」


 二人は目を見合わせる。それもそのはず、この階は国から貰った家なのだ。一般の人が来る事は到底できない。しかも、このエレベーターの一階には監視が付いており、人が入って来るのを止めるシステムになっているのだ。


 そして、エレベーターのドアが開き始めた時に、一つの可能性が二人の脳をよぎる。

 ここに来たのが、組合長の可能性だ。組合長ならば、何かを伝えるためにここに来ても何もおかしくない。


 ………でも、なんかやらかしたかな………?


 そんな事を考えているとエレベーターのドアが開く。


「どうしたんですか、組合ちょ………」


 胡桃が組合長と言いかけると言葉を詰まらせる。しかし、俺はその原因がわかった。


「やっと、見つけた。」


 そう、あの少女だ。


「え?え?え?何でココニ?」


「ついて来たの……。貴方が私を置いていっちゃうから……」


「レイ!さっきの気配がするんだけど!?」


 少女は俺にしか話しかけてこず、胡桃の事は無視しているらしい。それに、不可解な事に胡桃にはこの少女が見えていないみたいだ。


「聞きたいんだけどさ。君は何故、私について来るの?」


「貴方にしか私が見えていないから。いや、貴方と出会えたのが運命だからかな?」


「ふ〜ん、そっか。友達の様子を見るに、他の人からは気づかれないみたいだね。じゃあ、私について来てもおかしくないか………って、おかしいわ〜!!」


「レイ!?どうしたの?レイ!?」


 少女とは思ったよりも普通に会話が出来るらしい。ただ、そうなるとちょっと胡桃に静かにしてもらおう。この子が見えていない分。話がしづらい。


「ちょっと胡桃!静かにしてて。この子、意外と普通に会話出来るから。」


「うん……」


「で?君は私が見えるからついて来て、尚且つ監禁したわけかな?」


「うん、そうだよ!私を見える人なんて、この世界に一人も居なかったんだから、見える人が居るとなったら捕まえるしかないじゃん!私の前から消えちゃう前に!」


「うんうん。そっかぁ。じゃあ、私達と常に一緒に居たら監禁なんてしないよね?」


「しないよ!私、そしたらずっとついていく!」


 少女がそう言った時、全てをつなげる最高の選択肢が出て来た。この子を俺の仲間にすれば良いんじゃ無いかと。

 そして、自分の家に住まわせれば、万事解決なんじゃ無いかと……


「なるほどね。じゃあ、ここに住んで良いよ!その代わり、私の言う事は聞いてね!」


「分かった!言うこと聞く!それでずっと一緒にいる!」


「よし、じゃあそう言う事で……、胡桃!」


 胡桃の方をチラリと見てみると、落ち込んでいた。それも、かなり。


「胡桃!?」


「うぅ……、僕はまた頼りにならないのか……」


「頼りになるから、大丈夫だから。ね、そうだよね!」


 俺は少女の方を見て、そう聞く。


「胡桃!頼りになる!」


「ほら!この子も言っているから!胡桃は頼りになるよ。」


 実際は半強制的に言っただけだが……


「ほ、本当?僕にはその子の声も聞こえ無いけど……、本当にその子も言っているの?」


「う、うん。言ってるよ!」


「そっかぁ、安心したよ。でも、まだ力不足だね。僕じゃ……」


 胡桃はそう言うと握り拳を作って、床に倒れ込む。疲れが溜まっていた様で、一瞬で寝てしまった。

 ちなみに少女は俺の背中にくっついている。


「ねぇ、君。名前は何て言うの?私はレイって言うんだけど…」


「私の名前?私の名前は水無月、水無月みなづき かえで。」


「これから、よろしく。」


「こちらこそ。」


 所で、俺って楓と普通に会話出来てたけど、何で何だろう。別に友達ってわけじゃ無いのに……

 え?何?それは、他の子から近づいてくれたから話せる様になったんだって?うるさいぞ。イマフレのくせに……

 

 でも、なんか一個思ったんだけど……

 何で俺の周りってこんなめんどくさそうな奴しか居ないの?


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