第38話

 目が覚めると、リビングのソファーの上だった。


 ナビィに昨日の様子を聞くと、お風呂から上がった後、しばらく会話をしていたが、力尽きてその場で寝てしまったようだ。


 ナビィが部屋の温度を調整してくれていたようで、特に風邪をひくようなこともなく寝ることが出来たようだ。風邪を引いても、旧世界の治療薬があるので問題ないけどね。


『治療薬があるからといって、無防備に寝て良いわけではないです。きちんとベッドで休まないと、とれる疲れも取れずに、疲労がたまっていきます』


 おっと、考えていることがバレてしまった。


 そういえば、昨日俺が寝た後にギルドマスターから連絡が来ていたようで、ナビィが俺の代わりに返事をしてくれていた。


 まぁ、メールだな。


 もちろん、リアルタイムチャットのアプリもあるし、通話も問題なくできるが業務連絡のようなものなので、文章でしっかり残るメールをチョイスしたようだ。


 メールの内容は、偽装の加工の代金についてだ。ナビィの中で問題ない金額だったようで、俺への確認無しに返信したようだ。


 俺に聞かれたところで、値段が妥当なのかもわからないし、ナビィが問題ないというなら問題ないのだろう。


『リュウ、強化外骨格が届く前に言っておくことがあります。通信デバイスのおかげで強化外骨格にアクセスできますが、それは無理やり強化外骨格を動かせる程の力はありません。


 ですが、あらかじめ設定しておいた負荷をかけることは出来ますので、私が作り出す立体映像との実践訓練が可能となります』


 戦闘訓練をどうするかと思えば、強化外骨格をハッキングして、疑似的に実戦経験が積めるという事か。


『訓練の際、痛覚はダイレクトにありますので、ご注意ください。加減をしてもいいですが、そうするといざという時に甘えが出てしまうので、痛覚は通常と変わらない痛みが走ります』


 マジか……言わんとしていることは分かるけど、痛みがダイレクトにくるっていうのは、正直きつくないか?


『訓練時には、低級の回復薬を使いますので、痛みは多少和らぐと思いますが、実戦と変わらないレベルで痛みが発生します』


 回復薬のナノマシンは、確か痛みを和らげる効果もあるんだったな。


「それなら遺物の回復薬じゃダメなのか?」


『あれは、訓練に使うには高級すぎますし、低級の回復薬を飲んで訓練するのには、一応理由がありますので大量に購入する手はずも整っております』


 どうやら、ギルドマスターに返信をした際に、回復薬の購入も行えるようにお願いしていたようだ。俺のお願いじゃないけど、訓練に使うという名目で沢山購入する形だ。


 色々とお金を使ったが、遺跡にある遺物の量が想定より多く、俺の手取りのお金も増えるそうだ。


 税金やその他諸々を差し引いても、22億近くは俺の手取りになるそうだ。


「そういえば、回復薬のナノマシンって使いすぎると、体にナノマシンが残留して悪影響が出るんじゃなかったっけ? この前、勉強した時にそんな事言ってなかったか?」


『よく覚えてましたね。薦められた方法ではないですが、リュウは一度病院にかかる予定です。その時に一緒に、残留しているナノマシンを除去してもらう予定です。


 想定では、それ以外に2回はナノマシン除去をしてもらうと思います。訓練でどうしても過剰に使い必要が出てくるので、訓練が一通り落ち着くまでは、何度でも行う形になるかと』


「えっ? その度、高い金を払う必要があるってことか?」


『法外に高いのは、最初の1回だけです。体を正常に戻すために手術をするので、ナノマシン除去とは比べ物にならない位のお金がかかります。ナノマシン除去だけでしたら、100万もあればきれいに除去してくれます』


 100万って……十分高いんよな。


 だけど、回復薬のナノマシンを大量に使うのは、ハンターくらいだ。そのハンターでも、除去しなければならないほど使うのは、中級以上のハンターだろう。


 中級のハンターからすれば、100万で除去できるならやすいものってことか。


 そんな話をしていると、チャイムが鳴る。


 俺はすぐさま警戒態勢に入るが、


『あっ、頼んでいたモノが届いたみたいだから、受け取って』


 ナビィが何か注文したってことか……何を買ったんだこいつは?


 宅配は人ではなく、ロボットが行っていた。


 注文の品を確認して、サインを押すことで受け取り完了。


 そこまで大きくない……靴の箱くらいの大きさで、結構軽いものだ。外見ではまったく何かわからなかったが、注文を受け取る際に中身の確認があったので、何が入っているのかは分かっていた。


「ギルドマスターが購入してくれるのに、注文してまで今日買い求める必要があったのか?」


『本当に確認の意味で、リュウにはその回復薬を2~3錠飲んでほしいの。その後に体を少し動かしてもらっていいかしら?』


 言われるがままに低級の回復薬を飲み、室内でもできるトレーニング、筋トレをすることで、体を動かすという条件を満たした。


 10分程続けても低級でも回復薬の効果なのか、疲れることもなく動き続けられた。


『やっぱりそういう事ね。探索時は高価なのにして、訓練時は安物の来る死を使うことにしましょう』


 ナノマシンで直すわけだから、おそらく再生に近い能力だと思うのだが、実際には低級の回復薬は再生ではなく、自己治癒力を最大限に強化して、内出血などを治すそうだ。


 何が違うのかと思ったが、上級の回復薬だと筋繊維が切れたとしたら、ナノマシンをすぐに使って修復してしまうのだ。上級のを飲んでしまうと筋トレをしても効果が無くなってしまうそうだ。


 低級の回復薬ならそんなことは無いので、筋力アップなどにも使えるそうだ。


「荷物を運んだりする時に、散々高い薬を飲んだけど、あれって大丈夫なのか?」


『あれは、疲れなくするための処置でしたので、何の問題もありません。筋繊維などは修復されても、体力をつけるために行った運動は、きちんと効果が出るので問題は無いはずです』


 その日は、筋トレ用のダンベルなどを購入し、近くの下水倉庫の中で回復薬の効果が切れるまで、ひたすら筋トレをした。


 3日後。



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