この手を握り続けて

聖羅 

最初で最期の…

昔から病弱だった彼は今、生きるか死ぬかの狭間にいる。

彼は必死になって今を生きようとしている。

私にできることは何もない。ただただ彼がこの後も生きれるよう祈るだけだ。


「おはよう。どうしたの? 随分と怖い顔して」

「……なんでもない。」


病室で一人横たわり、今も死に抗っている。そんな彼は楽しそうに私の前で笑っていた。


「俺ね多分もう長くないんだ。」


それは彼の切実な言葉だった。彼が学校に来れた期間は少ない。でも幼馴染である私は知っている。


「……そんなこと言わないで。」


私は素直に思ったことを口にした。でも彼は続けてこういった。


「だめだ。こんな俺を愛してくれた君にはしっかりと伝えないといけないんだ。」


『やめて…』彼の子供のような無邪気な笑顔を見て私は改めて思った。彼を救いたい。彼の笑顔をもっと見たいと。

でも私のその思いは届かないらしい。


「俺はね、君には幸せになって欲しい。だから俺を忘れてくれ。」

彼は私にそう告げるとまた笑った。でもその笑顔にはもう力強さは感じられなかった。


「いや! 私は貴方がいいの! 貴方を忘れるなんてできない!」


私は彼の手を握りながらそう叫んだ。でも彼は私の手を振りほどいた。そして私を見つめてこういったのだ。


「ありがとう……でもごめん……」

『やめて……』私は心の中でそう叫んだ。


心なしか彼にはもう余裕がないように見える。「君の手……あったかいな……」彼はそういうと静かに目を閉じていった。


私が彼の事をいくら呼びかけてももう目を開けてはくれなかった。


『どうして…私のことを置いて行かないでよ。』私の心は黒いなにかに塗りつぶされていった。それが何なのかは私には分からない。


ただ私はまだ彼のぬくもりが消えていない手を握りしめながら泣き続けた。

医者がやってきて彼のことを確認するまでずっと…


翌日…彼が正式に亡くなったことが伝えられた。

私はまた泣いた。泣いて泣いて泣きまくった。でもずっと泣き続ける訳にはいかない。

私が彼のことを忘れずに、心に留めておくことが一番だと信じて…


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