第10話

あの後にもグダグダ管を巻いてるようなグチのような脅しのような

口上が続いたが

私にはもうどうでも良かった


言葉はもう何の意味も持たずに鼓膜に響いているだけだった

何の反応もしなくなった私は

わざわざ二人がかりでズルズルと引きずられ

牢屋のようなスペースに閉じ込められた


妹は、もうこの世に居ないだろう

誘拐犯人ならば、金づるの連絡先が途絶えたら

やることは1つと決まっているからだ


それもこれも私がヘマをしたせいだ


魔女の共同開発者だったというあの男は

明日にはこの体から私を追い出してくれるらしかった

保存しておく価値すらない私の人格は消されるだろう

それで、いい


それでも体を返す前に最低限のことはやっておきたかった


「ねーえ、何でそんな辛気臭い顔してジョギングしてるの?」


鉄棒だけで区切られた私のスペースの隣から

聞き覚えのある声がした


「・・私を売っただけでは足りないような

悪いことでもしたのか?」


やーねこの人

人聞きの悪いこと言っちゃってと全く悪びれない笑い声がした

それは私を誘拐した、あの女だった


「もうどうでもいいんだよ

どうせ明日のこの時間には私はいなくなっている」


それが一番の救いだった

もうどんなに願っても家族は返ってこないし

私は妹すら守れなかった


「それはお金があったら解決、って話じゃないのよね」


「金があったら、か」


そうしたらあの人で賑わう通りを楽しく歩いていたかもしれない

妹だって誘拐されたとしても

警察は真剣に捜査してくれていたかもしれない

それ以前に家族自体もまだ生きていられただろう

でもそんなことを考えていても現実が変わるわけではない

もう、決まったことなのだ


「たらればで解決するほど甘い世の中じゃないんでね」


もう、うんざりだ


「悪いけれど、ちょっと静かにしてくれないか」


重い体を引きずって運動していると息が切れた

それを全く聞いていないような女は先を続けた


「今日は、良いお話をもってきたの」


私同様、何かヘマをやらかしてここに入れられただろう女

私を一度は騙した女は

これ以上何を語りたいのだろうかと何だか可笑しかった

どうせ明日には居なくなるのだから

聞くだけ聞いておこう


薄暗い照明の下

女の唇は濡れているように光って動き続けた








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