第9話

お仲間とは何のことだ

もしかしてバレたのかと訝し気に思いながらも

気になるのは残り時間だった

じりじりとした不安が脳裏を包み込んでいく


「大体ね、ここはまだ考えるべきところじゃない?

政治生命終わりよあんな写真が出まわったら

それに決裂って言われて

はいそうですかって解放する?そんなのあり得なくない?」


ねえこっちの身にもなってみてよ

こっちだって生活かかってんのよと男は続けた


「きょうび、経営って苦しいのよお

大きなマフィアとかについちゃえば楽なんでしょうけどね

州だけでこの世界の5位以内に入るようなご立派な経済社会に

居場所がないような貧民区の人員に金銭提供するのだって

立派な社会貢献じゃない?」


その社会貢献を邪魔する気なのお?

恨まれるわよ、あなたが気にもとめない貧民層からね


ああ、外側が政治家ってだけで

あなたもその貧民層の一員だったっけ?

政治家ってもっとべらべらと立石に水くらいな勢いで喋るものよと

あくまで優し気な口調で男は言った


背筋に冷や汗が伝わった


「この広い世の中で

あなただけがあの魔女のビジネスに関わってたなんてこと

思っちゃいないだろうけど

ほらこれ見て」


差し出された携帯電話画面に見えたのは

今では珍しいような白黒の記事だった


「魔女と人間イノベーターとの共同開発?」

そこにはそんな見出しが躍っていた


「あんのクソアマ、技術を共同開発してたところから

最後の段階でアタシのクビ切ったのよ!

ホントに最後の最後で!だからね言っておくけど

あの頭脳移転技術はアタシとあの魔女で開発したようなものなのよ!」


そこから流れ流れてこの業界に流れついたのよおと

男は何だか芝居っぽい口調で話した


「それはその最後の最後であんたが何かやらかした

ということではないのか?」


私が知る限り

よっぽどのことをしない限りはあの魔女は契約を切ることはないと思っていた

まあ、この事態が魔女に知れた段階で私が切られることは確実だが

そんな事情がこの男にもあったのか


「んまあ失礼しちゃうわね

アタシはアタシの世界規模なビジョンがあって

あの魔女にはあのアマのくっそ狭いビジョンがあっただけの話よ」


アタシに任せておいたら

あの魔女のビジネスなんて

もう何倍にも拡大していたところだったのにと男は爪を噛んだ


「大体ね、アレはやってることがまだるっこしいのよ

肉体改造を人間に任せてるなんて非効率なことこの上ないじゃない

脳機能をちょっといじったらもっと効率的に

ビジネスライクに出来るようなのを」


アレで世界が手に入るところだったのよと男はやっぱり芝居がかったように

こぶしを宙に突き上げた

ちょうど、スポットライトが当たっていた

何だかマヌケな光景だった


そして私は

この男が何故契約を切られたのか何だかわかったような気がした

私の知る限りあの魔女は

顧客の安全を担保にしてまでビジネスをするような人柄ではない

それにそれをわざわざ世の中に知らしめようとするような

尊大な態度でもなかったような気がする

こっそりひっそり、でも確実に。がモットーな

変な魔女だと思っていた


「だけどね、あの実験が成功して

ビジネスに使えるような技術になっていたってことね

そして、アンタはカモがネギ背負ってやってきたって自覚あるかしら?

アタシとしてはどんな形でも

この政治家がうんと言えばオッケー

それにくっついてきた、余計な人格のことまで保障する義理はないのよね」


立派な腕時計の針は

金の受け渡し時間ぴったりを指していた


今日何度目か

数える気も起きない溜息が出て

私には絶望しか残されていなかった


もう、終わりだ





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