第3話

「それだけはホントに止めてくれ」

禁忌だって分かってるだろとイトコは続けた

真剣な声のトーンだった


「それに知ってるだろ、俺のところの事情?頼む、俺は金が必要なんだ」

小さな手が私のシャツの袖を掴んでいる

それは私も同じだ、だけど


「悪い、今やらなきゃ後で絶対後悔する」


小さな扉の前でケンカになっているのは

さっきの妹からの連絡のせいだった


妹は、誘拐された

そして誘拐犯は身代金を要求していた

犯罪率の高いこの街では特に驚くべきことでもない

だから一般庶民の誘拐程度では警察が頼りにはならないのは分かり切っていた


「だからなお前、その体で行くつもりか

罰金で済まないのは分かってるだろ、俺にもしわ寄せが来るんだよ

だから体交換するまで一時間だけ待てって言ってるんだよ」


「それじゃ指定時間まで間に合わない!」


ケンカは堂々巡りだった

禁忌だし危なすぎるだろそれと

今度はイトコが大きなため息をついた

いっそのこと魔女に連絡取るかと電話に手を伸ばしたところを止めた


「あいつは業績にしか興味がないだろ?」


それに助けと引き換えに妹へどんな要求をされるか分かったものではない

それくらいなら、多少のリスクがあっても

自分で妹を助ける選択をした方がマシだ


あああああと地獄からでも響いてくるような

少女らしからぬ低音が、頭を抱えたイトコから響いてきた


「頼む、この通りだ

今は行かせてくれ

この体で悪さなんかしない

妹の身代金を払って、妹の身柄を確保したらすぐに帰ってくる

それに、妹を助けたらその後でお前の奴隷にでも何でもなってやる

一生かけてお前にかけられたペナルティーの金は補填する」


お前の家族のことは知ってるよ

だから妹に固執するんだろとイトコは続けた


「だけどな、妹を助けたその後はもうこの街に居られなくなるぞ」

根無し草だぞ根無し草とイトコは続けた


「分かってる」


「魔女にどんな仕返しをされるかも分かってるんだろうな」


「もういいんだ、どうせ金も学もない

今生きてるのだって糞の中を這いまわってるような人生だ

妹に楽させるくらいにしか生きてる価値がない」


ああもうどうにでもしやがれと

イトコがすっと扉を開けた


それは緊急脱出用のダクトだった


もしもの事態に備えて

セキュリティーを突破しなくても

すぐに街中へと脱出できる、魔女の作った避難要路だった


「ありがとう」


体はひゅっと要路に吸い込まれていった

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