星空の下の恋は

西しまこ

恋は秘め事

「つきあってください!」

 旭はカンナにそう言って、カンナの目をじっと見た。

 カンナはにっこり笑うと「いいわよ」と言った。

 旭は、言われた言葉が信じられなくて、「えっ? マジ?」と思わず言ってしまった。


「うん。旭くん、けっこうカッコいいし、話しやすいし。でもね、一つお願いがあるの」

「何?」

「二人のことは誰にも話さないで」

 カンナの表情は真剣だった。

「え? ど、どうして?」

 すぐにでも誰かに話してしまいそうだった旭は戸惑いながら、言った。

「だって、秘密の方が、恋って感じがする」

「そう?」

「うん、そう!」

 カンナは旭に腕を絡めて、上目遣いに旭を見つめて言った。

「よろしくね、旭くん。でも、みんなの前ではこれまで通り、友だちでいてね」

「お、おう!」

 旭が顔を真っ赤にして応えると、カンナは春に咲く花のように笑った。


 旭とカンナは高校のクラスメイトだ。

 旭は告白してOK をもらった翌日、教室でカンナを見かけ満面の笑みで手を振ったけれど、冷たく無視された。

「なんで無視するんだよ」

「だから、二人のことは秘密ねって言ったじゃない」

「うん、だけど」

「あれじゃ、バレちゃうでしょ。とにかく、今まで通り」

「……うん」

 旭は釈然としない気持ちで過ごした。

 旭とカンナはそもそも友だちだった。だから、そのラインは越えてはいけない。だけど。


 カンナは友だちが多い。

 女子にも男子にも友だちがいる。クラスで他の男と仲良く話しているのを見ると、旭はなんだかおかしくなりそうだった。

 カンナが浩人に笑いかけた。俊がカンナの肩に触れた。グループに分かれるとき、カンナは旭と同じグループにならなかった。旭は恨めしい気持ちでカンナを見ていた。

 秘密だから、登下校もいっしょになれないのが不満だった。

 これってつきあっているって言えるのだろうか。


 塾が終わって、旭はカンナの塾が終わるのを少し離れたところで待っていた。

 二人で自転車を押して歩く夜道。そして、その後少し公園で話す。


「ねえ、カンナ――男と話さないで」

「どうして?」

「だって」

「……嫉妬しているの?」

「……カンナがオレたちのこと、秘密にするから――心配なんだよ」

 旭は下を向いて手をきつく握り締めて、声を絞り出すようにして言った。

「どうしてそんなに心配になるの?」

「だって、それはカンナが……好きだから」

 旭は「好きだから」のところで、カンナの目をまっすぐに見た。カンナは目を大きく見開いで旭を見て――キスをした。


「あたしも好きよ」

「カンナ」

 今度は深く深くキスをする。

「ねえ、これも秘密。誰にも話さないで。誰にも。だって、好きっていう気持ちは、秘密である方が深まる気がするの」

「うん、カンナ」

 何度もとろけてしまいそうなキスをする。

 旭はカンナの気持ちが少しだけ、分かったような気がした。


 この甘さは二人だけのもの。


 星のきれいな夜だった。

 二人の吐息は重なり合って、星の瞬きのように二人の心の中で光を放ち、淡く白い光のつぶとなって静かに降り積もった。

 甘い、光のつぶ。

 二人だけの。





     了

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