第9話 友情とノート

「買い物?別に付き合ってもいいが、愛彩あいかがそんな事頼むの珍しいな。荷物持ちならやらんぞ」


その日の放課後。俺は愛彩と一緒に帰っていた。


というか起きたら放課後だったのだが。


看護教員によると、俺は葉狼はがみさんのイケメンムーブによって気絶した後、近くを通りかかった体育教師によって担がれて、保健室に搬送されたようだ。


「最近、気絶する人が多くて人手が足りてない……」


らしい。お疲れ様です……


そんで、外で待っててくれた愛彩と一緒に帰ってるってわけだ。


「え〜、か弱い女の子の荷物が持てるんだよ?願ったり叶ったりじゃない?」


「なわけあるか。葉狼さんのためならともかく、愛彩の荷物は持たんぞ」


「いいじゃんケチ!カッコつけたいとか思わないの?」


「今更、愛彩の前でカッコつけて何になるんだ」


「いやまぁ、それはそうなんだけどさぁ……」


そう言ってため息をつく愛彩。


残念だがそんな態度取られても荷物は持たんぞ!!!


と覚悟を決めたのだが、


「ま、いいや。冗談だよ。そりゃ持ってくれるなら嬉しいけど、あたしは氷真ひょうまと買い物に行きたいだけだからさ」


意外とあっさり引き下がった。荷物持ってくれないなら付いてこなくて良いとか言うもんだと思ってたので何か意外だ。


「そんじゃ、明日10時にショッピングモールで集合ね」


「分かった、噴水のところで待ってるわ」


待ち合わせ時間とどの店を回るかをある程度決めた後、家に帰った。
























愛彩と話していたから帰りが少し遅くなったな。


玄関の鍵を空けようとすると、何故か扉が開いていた。


おいおい、不用心だな。


「ただいま」


「氷真おかえり〜、そう言えば氷真にお客さん来てたわよ〜」


家に帰ると母さんが迎えてくれた。


「お客?どんな人だった?」


別に今日は遊ぶ予定などしていないはずだが……気絶してたし。


「綺麗な女の子だったわ〜。ノートを持ってきてくれたみたいよ」


「ノート?まぁいいや。母さんが預かってるの?」


「え、いや〜?氷真のお友達みたいだからお部屋に案内しといたわ〜」


え????


「勝手に何やってんだ!!」


「追い返すのも悪いと思って〜」


「女の子家に呼ぶ方がよっぽど……!!!」


そう叫んだところで俺の部屋の扉が開いて、よく見知った顔が部屋からひょっこりと顔を出した。


立花たちばな。おかえり」


お客ってプラチナのことか……


っていうか、おかえりじゃねぇよ。なんか馴染んでんな……

























「ごめんな家の母さんが。めったに友達なんて来ないからテンション上がったんだと思う」


俺は2人分のお茶とお菓子を持っていき、部屋の中央にある小さいテーブルに置いた。


「いや、構わない。とても丁寧に対応してくださったぞ」


「それでも、男子の部屋に上がるのは抵抗あるだろ?」


「私は別に気にならないぞ。まぁ、普通に友達の家に上がるの初めてだから……それなりに緊張、はするが」


確かに、プラチナはさっきからなんだかソワソワしていて落ち着きがない。


早く、要件聞いたほうが良さそうだな。


「それで、何の用事で来たんだ?てかよく家知ってたな」


「あ、あぁそうだった。授業のノートを持ってきたんだ。氷真は5、6、7時限保健室にいたからな。家は先生に氷真にノートを持っていくって言ったら教えてくれたぞ」


「え?わざわざ授業のノート見せるためだけにここまで来てくれたのか!?」


「?無いと来週の授業で困るだろ」


その言葉に俺は絶句する。


コイツ……なんていい友達なんだ……


「マジでありがとうな。でも、それならメールでもしてくれれば良かったのに」


「私、立花の連絡先知らないぞ?」




あっ。





「……良かったら連絡先交換しない?」


「……奇遇だな、今私もそう言おうと思っていたところだ」


そうして俺とプラチナは無事に連絡先を交換した。




























「ほんとにノート貸してもらって良いのか?」


「良いぞ、特に困らないからな」


暫く部屋で雑談した後、俺はプラチナを歩いて駅まで送っていた。


「それにしても、まさか気絶して保健室に運ばれていたとはな……体調は大丈夫か?」


「あぁ、心配してくれてありがとう……」


ちゃんと心配してくれているプラチナ。……言えない。葉狼さんにトキメキすぎて気絶したなんて、口が裂けても言えない。


「……それなら良いんだが、もし何かがあったら私に相談しろよ。友達だからな」


「ほんとプラチナは優しいな、ありがとう」


そう言うとプラチナは少し頬を赤らめる。


「照れてるのかぁ?何だ可愛いじゃん」


「……あぁ、照れているんだろうな。立花に褒められると何かくすぐったくてな」


「……おぅ」


なんか変な声出た。


ただからかってやろうと思っただけだったのだが、思ったより簡単に認めるもんだから調子が狂う。


止めて!からかいにガチで返されると照れくさいんだよ!


「立花は初めてできた友達……だからな。優しくしたいんだ」


「……」


何だこの可愛い生き物は……


話は変わるが、幼稚園くらいのときって


「友だちになってください!」


って言ってそれが承諾されないと友達になれないみたいに俺は勝手に思ってたんだが、今のプラチナからはその幼稚園のときくらいのピュアな友情を感じる。


何か、心が浄化された。


「マジでありがとう。一生プラチナとは友達だ!!!」


「なんで泣いてるんだ!?私はそんな深刻な事言っていないぞ!」


いい友人を持ったな……、いかんいかんまた泣くところだった。


俺は袖で涙を拭い、プラチナはマジで大切にしようと心に誓うのだった。














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