ゆうびんやさん

すみはし

ゆうびんやさん


ある日、たぬきさんに一通の葉っぱの手紙が届きました。

きれいな茶色の葉っぱです。

しかしその手紙には何にも書いてありません。


「いったいぜんたいどういうことだ」


たぬきさんはハテ、と首をかしげました。

右から見ても、左から見ても、上から見ても下から見ても、光にすかしても何にも見えません。

ヒィラヒィラと投げ落としてみてもただ風に揺られるだけでした。


ヤギの郵便屋さんに「これはいったい誰からのお手紙だい」と聞きますと「二つ向こうの山のキツネさんからあずかったもので、たぬきさんにということでしたねェ」

キツネさんとはたまに連絡を取り合い年に一回あいだのくまさんのお山で宴会をする仲でしたが、今回はどうしたものか。

お手紙を返そうにも何と書いてあるかわかりません。


「ヤギさんヤギさん、いったいこれに何と書いてあるかわかるかね」

「ハテサテ、何のことやら。ワタシにはわかりかねますねェ。だって何にも書いてないじゃあありませんか」 

「じゃあナンだってボクに届けられたのだい」

「知りませんよ、だってキツネさんに直接たぬきさんにと頼まれたのですから」

ヤギの郵便屋さんはそういうばっかりで全然あてになりません。


「もういいよ」

たぬきさんはプイとそっぽを向いて郵便屋さんを後にしました。

たぬきさんは改めて茶色い葉っぱを見つめましたが、やっぱり何も起こりません。

キツネさんに直接聞きに行くことにしました。


なにぶん距離が遠いものですから、秋が冬に代わってしまいそうです。

キッチリ着込んだ毛糸のセーターに帽子とマフラーをしっかりつけてキツネさんのもとへ向かいました。

いつも宴会をするひとつめの山を越えて、周りを見渡すとすっかり冬景色。

真っ白な雪が木やおうちに積もっていました。


「もうすっかり冬だなぁ」

たぬきさんはつぶやきました。

「ヤァヤァたぬきさん、宴会でもないのにどうしたのだい」

「どうもこうも、キツネさんから手紙が届いたもので、中身がわからないので直接聞こうと思ってね」

「なるほど、冬は寒かろう。しばらくゆっくりしていくといい」

まだまだ先は長いのでくまさんのお山でしばらくお世話になりました。


春も近づき雪も溶けてきたころ、ふたつめの山を越えました。

そうするとようやっとキツネさんの住んでいる里が見えてきました。


「ヤァヤァ、キツネさん」

たぬきさんはキツネさんを見かけて手をあげて声を掛けました。

「オヤオヤたぬきさん、いらっしゃいいらっしゃい」

キツネさんはにっこりしてたぬきさんを歓迎しました。


「君がよこした手紙に何と書いてあるのか全く見当もつかないものだから、直接聞きに来たのだよ」

たぬきさんは答えました。

「オヤ、いったいどういうことだい」


「君が何にも書かない茶色い葉っぱをよこしたのじゃあないか」

「何にも書かないとはどういうことだい」

「イヤイヤ、これを見たまえよ。何にも書いていないじゃないか」


「アレ、いったいどういうことだ」

キツネさんはつりあがった目をたぬきさんのように丸くして言いました。

「私が送ったのは緑色の葉っぱだよ」

キツネさんは続けました。


「緑の葉っぱに茶色いペンで『いつもは真ん中のお山に集まっているけれど、たまには私の里にどうだい。春はおいしい果実があるよ』と書いたのだ」


なんと、緑の葉っぱは長い月日をかけてたぬきさんのもとへ届いたものですから、すっかり茶色くなってしまったのです。


「ナルホド、茶色い葉っぱに茶色い文字、見えないのも当たり前だ」

キツネさんは笑って言いました。

「私が夏に出した手紙はキミの所に秋に届いたのだね

ナァニ、もともと春に君を呼ぶ予定だったのだ。ちょうど来てくれて助かったよ」


暖かい日差しが差してきたころ、キツネさんは沢山の果実をもってたぬきさんをもてなしました。

「予定が狂ってしまったかもしれないけれど、結果はこれでよかったのだね」

たぬきさんは言いました。


「これからは茶色いペンで連絡するのはやめることにするよ」

キツネさんはポリポリと耳をかいて笑いました。

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ゆうびんやさん すみはし @sumikko0020

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