第44話 お疲れですか?
「マニエス様、お疲れですか?」
ここ最近、またお帰りが遅くなってきていることは存じ上げておりましたが。
天気が悪いからと、以前お義母様へご相談させていただいた際に使用した談話室で、マニエス様と二人。簡易アフタヌーンティーを楽しんでいたはず、なのですが。
先ほどから事あるごとにため息ばかりついていらっしゃるのが気になって、ついそう問いかけてしまいました。
お仕事がお忙しくなっているのだから、お疲れなのは当然のことなのに。どうしても、直接聞いてみたくなってしまったのです。
「そう、だね。少しだけ疲れてるかも」
「でしたら、お部屋でゆっくりお休みになられたほうが――」
「そこまでじゃないよ。それにこうしてミルティアとお喋りできる時間は少ないから。僕にとってはとても大事な、癒しの時間なんだ」
「癒し、ですか」
私との時間が、どうして癒しになるのかは分かりませんが。マニエス様がそうおっしゃるのなら、きっとそうなのでしょう。
「ちょっとね、もうすぐシーズンが終わるからって、最後に占って欲しいっていう依頼が多くてね」
「毎年のことなのですか?」
「父上にも確認してみたら、そうらしいよ。確かに、分かるんだけどね。娘の相手に問題はないかーとか、婚約しようと思っているけど大丈夫なのかーとか」
確かにそれは、先に知っておけるのであれば知りたいと思うのが普通でしょう。急にお忙しくなってしまったことにも、納得です。
「まぁね、そりゃあね。普通は僕たちみたいに『嫁取りの占い』なんてしないからね。シーズンを使って自力で見つけた相手が問題児だったら、今後困るのは分かるんだけどね」
理解は示しながらも、マニエス様はどこかご不満そう。
と、いいますか。
(珍しいかもしれません)
テーブルに肘をついて、手の上に顎を乗せて。
あまりお行儀がいいとは言えない姿勢で、ため息をつきながらそんなことを口にされるなんて。
「正直さ、最終的な決定を下すのは本人でしょう? それなのにそれを他人に委(ゆだ)ねようなんて、何でそんな考え方に辿り着くんだろうね」
「……先が見えなくて、不安だから、でしょうか?」
「そうだね。でもそれならいっそ、相手選びの時に呼んで欲しいんだよね」
言われてみれば、確かにそうかもしれません。
お相手を一人に絞って、そのお方で果たして本当に大丈夫なのかどうか、よりも。何人もいる候補者の中から問題なさそうで、かつ相性も良いお方を占っていただけるのであれば。そちらのほうが時間も労力も、無駄にはなりませんし。
「分かるよ? その時にはもう占いの順番が決まってて、この時期になっちゃったってことも。分かるんだけどさ」
マニエス様は頬杖をついていた姿勢から、グッと体を伸ばして。カップの中の紅茶を、喉の奥へと流し込むと。
「だったらいっそ絞った一人じゃなくて、今いる中で最適な人を占えばいいのにね?」
そんな風に、私へと問いかけて――。
「確かに! マニエス様のおっしゃる通りですね!」
あまりの
いえ、その。本当に、的確なお言葉と言いますか。無駄のない占いの方法だなと、思ってしまったので。
さすが、占いを
「……純粋に褒められるとは思ってなかったから、ちょっとこういうの、照れるかも」
そんな私を笑うでもなく、むしろ少し嬉しそうに。けれど言葉通り、照れたように顔を少し赤くさせて、頬をかくマニエス様。
そのお姿に、私はどこか胸があたたかくなるような。満たされたような気持ちになるのです。
「ただ、本当にお疲れの時には正直におっしゃってくださいね? 私にできることがあれば、何でもしますから」
「……本当に? 何でも?」
「はい! 何でも!」
笑顔で言い放った私に、マニエス様はしばらく考えるようなそぶりを見せて。
けれど、すぐに笑顔になったかと思えば。
「そうだね。必要になったら、その時はお願いしようかな」
そんな風に、私を頼ってくださる可能性も残してくださったので。
「はい、ぜひ。待っていますね」
私もそれに、笑顔でそう返しました。
この時、マニエス様が何を考えていらっしゃったのか、私は全く知らないまま。
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