瑠璃光の復讐者~僕は少女と共に巨人を操り、仇を撃つ!~ エピソード:ゼロ

GameOnlyMan

第0話 伝説の始まり!

 静かな夜。

 パチパチと音を立てて燃える暖炉の側で、老人と孫らしき子らが談笑している。


「お爺ちゃん! あの話、また聞かせてよぉ」

「しょうがないのぉ。では、話すかのぉ、世界を救った英雄様と女神様の話を……」


 祖父は、孫にせがまれて伝説になった昔話を語り出す。

 それはこの地、オデッセアに古くから伝わる英雄伝。

 様々な冒険の末、人々を救い乾いた大地を潤し、平和をもたらした英雄達の伝説を。


  ◆ ◇ ◆ ◇


【すまない、マスター。完全に流砂に足を取られたスタック様だ】


 僕の頭上から、硬い感じがする男性の声が聞こえてくる。


「やっぱり無理しちゃダメだよ、トシ兄ちゃん。この子ヴィローだって最初から無理って言ってたよね?」


「ごめん、ごめん、リリ。一気に飛び越せると思ったんだけど、流砂地帯が案外と大きいし、こんなに砂が柔らかかったなんて」


 そして、背後に座っている女の子から、更に可愛い追撃を受けている僕。

 僕たちが乗る機械仕掛けの巨人ギガス

 それは、砂漠の流砂に足を取られて動けなくなってしまった。


「もー! お兄ちゃんは、いつもこんな感じだからわたしもヴィローも苦労するんだよ。また、ヴァジュラモードオーバーブースト使う?」


「それは辞めておくよ。あれはリリにもヴィローにも負担が大きいからね」


 背後の操縦席から乗り出し、可愛い頬を膨らませて僕の顔を覗き込む美少女リリ。

 彼女、義妹を名乗ってはいるが、僕と血の繋がりはない。


 ……リリとの出会いが僕を変えたんだよ。それまでの僕はタダの復讐鬼だったから……。


 見た目12歳くらいの華奢な肢体。

 そして瑠璃色で何処までも透き通った瞳。

 やや耳はとがり、ボブカットにしたプラチナブロンドの髪。

 桜色の唇に雪花石膏アラバスタの肌。

 絶対に守ってやりたいと思える、まだ存分に幼さを残した美貌の少女、それがリリだ。


 リリと出会う前の僕は、両親の敵討ち、復讐しか頭に無かった。

 ギガス鍛冶をしていた僕の両親は貴族に雇われていたが、4年前ある失敗が原因で死刑、いや私刑でむごたらしく殺された。

 そして、残された僕と幼い妹は奴隷として売られ、生き別れになった。


 ……その後、僕は奴隷として傭兵団に売られて、見よう見まねで覚えた技術でギガス技師やパイロットとして生き延びたんだ……。


 この乾いた大地、魔獣と自然の驚異の中で、人々はしぶとく生きていた。

 魔法の力と機械仕掛けの巨人ギガスによって。


 ……水や炎を無から生み出す魔法が無いと生きていけないよ、この過酷な世界は。


 ギガス、それは魔力によって動く機械の巨人。

 古代より伝承されたり、遺跡から発掘されたものだ。

 その便利さによって民間から軍、はては貴族の力として使われている。

 僕の家は、何代も前からギガスの整備を行う鍛冶をしていた。

 そして優秀なギガスを代々と伝承する貴族オスマン家に雇われていた。

 そう、あの時までは!


  ◆ ◇ ◆ ◇


「お兄ちゃん、妹さんと一緒の旅かい? よく砂漠を越えてきたね」


「実は途中でギガスがスタックしちゃって、立往生になったんだ。オヤジさん、お金を払うから人を雇ってギガスを掘り出したいんだけど?」


 さびれた街の酒場、そこに僕はリリを連れて入っている。

 僕はビールを、リリにはミルクを頼み飲んでいる。


 ……髪色が目立つリリにはフードかぶせているんだ。あ、僕は一応16歳だから成人しているぞ!


「残念だけど、それは無理だねぇ。領主様が成人した男どもを全員兵士にするって連れていかれているんですよ。残る女子供と老人で細々と農業や店をやっていますが、このままじゃ限界も近い。プラントの調子も良くはないし、雨も今年は一向に降りませんからねぇ」


 雨もほとんど降らない乾いた大地で生きる為に、人は己の魔力以外にもプラントという「遺跡」に頼っている。

 プラントは水、食料、生活に必要な機械、更には場所によればギガスの部品すら生み出す。

 大抵の街は、プラントを中心に砂漠の中に点々と存在していた。

 そしてプラントの管理は、代々A級以上のギガスを伝承されてきた貴族が行っていた。


「それは大変ですね。そういえば、オヤジさん。こちらの領主様は何方ですか?」


「アンリ・オスマン子爵様ですな。まだお若い方ですが、オスマン伯爵から分家をなさり、2年前にこちらに来られたさ。オスマン本家は近隣領地、なんでも連盟とやらとの戦争中。アンリ様は近々の出陣準備に忙しいとの事ですから、ここで集められた兵とF級ギガスは実家での戦争に使うのでしょう。困った事です……」


「……そうですか。オヤジさん、ありがとうございました」


 僕は、情報料にと酒場のオヤジさんに少し多めにチップを払った。


 ……アンリか。雇い主からの事前情報通りだな。こいつは両親を殺した仇の一人! それに雇い主から捕縛若しくは殺害命令も出ている。殺す前に妹、ナオミが何処にいるのか絶対に聞き出すぞ!


 僕は、酒場の窓から貴族の屋敷とその後ろに山のようにそびえるプラントを見た。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「さあ、お前たち。出陣するぞ! 俺の晴れ晴れしい初陣を飾るんだからな」


 アンリは、自らのA級ギガス『アグリオス』のコクピットで叫ぶ。

 周囲には守護騎士の登場するC級ギガスが3騎、そして装甲も無く搭乗者が丸見えのF級小型ギガスが10騎ほど、更に徒歩歩兵らが多数いる。

 アンリは彼らを率い、無謀にも早朝から自らの父ニコラの元へ移動を開始した。


・・


 しかし、A級、C級の歩くスピードにF級はおろか歩兵も付いて来れない。

 こと、慣れない砂漠で足を取られる中、どんどん差が広がっていく。

 更には、昼の砂漠環境は生身には過酷過ぎる。

 空調機能があるC級以上のギガスで無ければ日中の砂漠踏破は不可能に近い。


「アンリ! 待っていたぞ、両親の仇め!」


 しばしアンリが砂漠を移動している途上、突然何処からか声を掛けられた。


「何処からだ? お前ら、周囲を警戒!」


「はっ。申し訳ないですが、F級と歩兵は随分と後方にいまして……」


「くそぉ。役立たずの平民どもめ! しかし、仇とは誰だ? そんな覚えは一切ないが……」


 モニターや魔力センサーを駆使して周囲を警戒する騎士とアンリ。

 しかし、一向に敵を発見出来ず焦りが出るアンリ達。


「タダのブラフか? 何処からも出てこないのなら、ここから急ぎ離れるぞ?」


「りょうか……!?」


 罠にかかる前に撤退しようとアンリが動き出した瞬間。

 突然C級ギガスの一機からの声が途絶した。


「なんだ!?」


 アンリが背後にいたC級の方に振り返ると、そこにはボロ布に包まれた機体が爆発したように砂から飛び出していた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「トシお兄ちゃん、ヴァシュラモード起動! 一気に行くよぉ」


「ごめんね、リリ。さあ、殲滅戦だ。ヴィロー!」


【御意、マスター!】


 結局、僕はリリやヴィローに無理させてしまい、オーバーブーストモードで流砂から飛び出した。


 ……酒場でアンリの出陣を聞いて、ちょうど『ヴィロー』が埋まった場所を通る事が分かったから、先に移動して機体内で待ち構えていたんだ!


 そして始撃で目の前に居たC級ギガスの胸部コクピットを、容赦なく右前腕装備のパイルで貫いた。


「まず一機!」


 ぬるりとした感触がスティック越しに感じる。

 ずぷりとギガスから抜いた右手パイルは、油や何か赤いもので濡れていた。


 ……今は感じるな! 目の前の敵を殺さなきゃ、敵討ちは出来ない。それに……。


「トシお兄ちゃん、次いくよ!」


 背後に座るリリを守れるのは、僕だけなのだ。


【少年、この子を頼む。この子はこの星に生きる全人類の希望なのだ……】


 僕は、古代の遺跡『王家の谷』でリリとヴィローを偶然と運命で見つけた。

 そして、谷で眠る『彼』に、リリの事を頼まれたのだ。

 彼女を、とある場所まで連れて行くことを。


「ああ、リリ!」


 僕はヴィローの副腕二対を展開し、六臂ろっぴモードに入る。

 そして、立ちすくんでいたC級に飛び掛かった。


「おい! 急いで立て直すんだ! 所詮は、ただがおんぼろな一機。少々異形でも……?」


 副腕でギガスを抑え込み、僕は抜刀した剣でC級のコクピットを突き刺した。

 再び、ずぶりという感触が僕の腕に伝わった。


「二機目!」


 ……この感覚には、いつまでも慣れないよ。


「おい! 撃て! 撃つんだ!」

「はっ!」


 アンリと残るもう一機は、慌てるように手に持つ大砲を撃った。

 しかし、僕は剣で貫いた機体を盾にして前進し、そのまま体当たりをした。

 そして体当たりで吹き飛び倒れたC級に容赦なく膝を落とし、そこからコクピットに膝から飛び出したパイルを撃ち込んだ。

 ぐちゅりという感触が足元から感じられた。


「三機目!」


「お、お前は……!」


 機体の腕をぶるぶる震えさせながら、情けなく叫ぶアンリ。


「ようやくお前に逢えた! お前は覚えているか? 僕は4年前、お前たちに両親を殺されたトシミツ・クルスだ! お前が勝手に操作ミスで怪我をしたから、僕の両親はありもしない故障で機体整備責任を取らされて殺されたんだ!」


「誰だ? そんな奴居たか? お、俺は知らんぞ? それよりも、お前は貴族を襲うとは大罪を犯しているのだぞ! 俺に何かあったらオヤジはゆ、許さないぞ!」


「お兄ちゃん、これダメなパターンだよ。前もそうだったよね?」


 ……やっぱり覚えてはいないか。なら……。


「なら、妹、ナオミは? 4年前に奴隷商人に売られた女の子の行方を知っているか?」


「平民や奴隷商人のことなぞ、俺が、し、知るはずないだろ? もう4年も前なら死んでいるか、何処かの娼館辺りにいるはず。それよりも、今ならまだ襲った事を許してやる。なんなら俺がお前を雇ってやる。だから……」


「残念だが、今回の襲撃はお前の敵からの依頼なのさ。お前たち貴族連合は悪政をやり過ぎた。その上、今度は戦争だ。共和国からお前たちを捕縛、もしくは抹殺命令が出ているんだよ。だから、僕は来たんだ!」


 貴族連合の連中は平民に重税を課し、娯楽として僕の両親みたいに面白半分で人を殺す。

 そして反発をする者達は、ギガスの戦力で皆殺しにあってきた。


 だが、少ない資源で細々と生きる人々は、一人優雅に暮らす貴族の圧政を許せなくなった。

 また、貴族にも善政をしいていて現状を憂う者達も居た。

 そして、ここから遠く離れた土地、そこに良識派の貴族や貴族の圧政から逃げた人達が集まり、新たなる国家、共和国を作り上げた。


 ……その中心には立派な志の貴族の方もいて、A級以上のギガスも共和国にはいるんだ。


 しかし、自らの言う事を聞かない連中を許せない貴族達は貴族連合を作り、共和国に戦争を吹っ掛けた。


 ……今回、僕は共和国の傭兵。依頼を受けて何かと隙が多いアンリの捕縛に来たんだ。彼は両親の仇でもあるしね。


「お、オマエは共和国の犬か! なれば、許せん。この『アグリオス』の力で……!」


 アグリオスは手に持った大砲を振り上げて、僕に殴りかかる。


「甘い!」


 しかし僕は、大砲を機体の副腕で簡単に受け止める。

 そして剣を主腕で振り、アグリオスの両腕を簡単に切り飛ばした。


「ぎゃ、な、なんでA級の、膂力りょりょく自慢の『アグリオス』のパワーをそんなボロな機体が上回るんだ!?」


「それは、こっちが上だからさ!」


 僕は機体を振るわせ、覆っていたボロ布を吹き飛ばした。

 うなるタービン音、機体が魔力オーラで輝くのがメインモニター越しにも見える。


「じゅ、純白の機体。それも六腕の……。ま、まさか伝説の……」


 しゃがみ込み、後ずさりしながら逃げようとする『アグリオス』。

 しかし、逃がしはしない!


「さあ、お前は罪を償え! ヴィロー、全開で行くぞ! リリ、アレだ!」


【御意、マスター!】


「モード、ナヴァグラハ。エネルギーコントロールとシアはわたしが。照準とトリガーはお兄ちゃんへ!」


 リリの声を聴きながら、僕はヴィローに肩と背面から生える副腕、そして両腕を大きく広げさせた。


「で、伝説の日輪……、太陽の化身……」


 ぶつぶつと機体スピーカーで呟きながら振るえて這い逃げるアグリオス。

 僕は、照準を定める。


「ど、どうして、AAAトリプルエー級の神話機体をお前が……!」


「いくぞ、ヴィローチャナ!」


【我は太陽の化身、そして悪しきものを焼き払うアスラの王なり!】


 全部の腕、そして両胸と腹に開放された3つの砲口から青い、瑠璃色の魔力弾が現れる。


「ひぃぃぃ! 許して、許して下さい。もう、悪い事はしません。あ、奴隷商人! 思い出しました! 俺の家と付き合いがあったのは、アソコとココと……」


 なおも命乞いをするアンリ。


「もう遅い! お前は、僕の両親が命乞いしても無残に殺した。涅槃ニルヴァーナに行って反省してこい!! いけ、ナヴァグラハ九曜抹消!!」


 僕は、トリガーを引いた。

 『ヴィローチャナ』から放たれた九つの瑠璃色な魔力弾が、一斉にアンリの駆る『アグリオス』を襲った。


「ぎゃぁぁぁ!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「やっぱりお兄ちゃんは、お兄ちゃんだね」

「悪かったね、リリ。僕は中途半端で」


 僕は結局、アンリを殺さなかった。

 彼が命乞いに奴隷商人の名前を言い出したのもあったが、あまりに愚かで哀れなアンリを殺す気が失せたのだ。


 しかし、圧政をする彼を許すことは出来ない。

 あらかじめ連絡をしていた共和国の兵らに彼を渡し、僕は妹が売られた奴隷紹介の名前と賞金を手に入れた。


 ……あんな奴、殺す価値も無いよ。これから、牢獄で死の恐怖をずっと味わうのが良いさ。



「でも、これであの町も平和になるよね、トシお兄ちゃん」


「ああ、共和国から駐屯軍にプラントのエンジニアも来ているし、働き手が帰って来たんだ。今度来る頃にはもっと良くなっているに違いないよ」


【それで、私の修理はいつになるのですか、マスター? いつも全開運転の後は、こうなるのですが……】


「ごめん、ヴィロー。後から来る連盟の便で部品と修理技師が一緒にくるって話だから、それまで待っててね」


 嬉しそうなリリの笑顔。

 そして文句を言いながらも、僕の力になってくれているヴィロー。

 この相棒達が居る限り、僕は負けない。


「残る仇は7人、そしてナオミの行方も……」


「お兄ちゃん。絶対にナオミさんともう一度出会えるってわたし、信じているからね」


「ああ、そうだね、リリ。じゃあ、今日は酒場のおじさんのところでぱーっとご飯食べようかな?」


「さんせー! わたし、オムライス食べたいなぁ」


【私は、またまた砂漠でお留守番ですか。ぐすん】


 愚痴を言うヴィローを慰めて、僕は腕を組んできたリリと街に向かった。


(おしまい!)

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