おむかえきました

@ryonko41

小学生時代 1

 小学生の私の放課後は決まっていた。

 その頃、仲良しの友達は少なく、いたとしても隣のクラスに2、3人程度と小規模だった。放課後に友達と遊ぶなんて事はなかった。皆、塾だのお使いだの、それぞれに予定があったからだ。私は塾で勉強出来る事を羨ましく思った。無心で宿題に取り組めるなんて、この上なく有意義だと感じた。私が放課後に向かう所に、そんな事が出来る環境はなかったのだ。

 私は放課後は家族の迎えが来るまで、ずっと学童保育で過ごした。授業が終わるのが15時30分とかそれ位で、迎えが来るのが16時すぎ。1時間程度だ。当時私は鍵を持たされていたし、早く帰らせて欲しいなあ、と考えていた。親にそれを訴えた事は幾度もあった。

 親は私の意見を聞いて、暫く考える、とだけ返してくれた。私は家に早く帰って宿題がしたかったのだ。早く宿題を終わらせたら、好きなだけ本が読めるではないか。誕生日にたんまり本を貰ったから、それが読みたくてたまらなかったのだ。

 しかし、私のこの楽しみな計画は、いともたやすく崩れ去っていった。最近ここの学区に変質者が現れたから一人で帰るのは危険だという事で、変わらず学童保育に行く事になってしまったのだ。不満そうな顔をしたであろう私を見て、

「仕方ないでしょう、お母さんはひかりが危険な目に遭うのは嫌なの。休日いくらでも付き合ってあげるから我慢してちょうだい」

母は私を宥めてくれた。その言葉を聞いて、私は少々不本意ながらも従う事にしたのだ。

 学童保育の景色は複雑だ。真面目に宿題に取り組む者、中身がスカスカなタイプの大きいブロックを使って耐久性がどうしても欠けてしまう城を数人がかりで造る者、籠の上のお菓子の争奪戦に加わる者、静かに本の世界に入り浸る者、友達とあの先生かっこいいよね。えー、でも私はあのドラマに出てる俳優の方が好きー、といった恋バナに目を輝かせる者、そして、これは私が一番苦手としていたものなのだが、狭い部屋なのに見境なく大声を出して騒ぎ立てる者…。

 とにかくこんな狭い部屋だというのにバラエティに富んでいるなあ、と幼いながらに感じていた。

 私はこの中のどれにも属していなかった。ただ畳の上に座り、窓に目をやって、せんせーさよおならあ、というハッキリとした数人程度の合唱を聴き、ひらひらと飛ぶ蝶の数を数える…。とにかく、ぼーっとしていた。大層無気力な生徒に見えたんだろう。数週間に一度、昼休みに担任の先生に

「ひかりちゃん、何か身の周りで嫌な事あった?」

 顔を覗き込まれてそう聞かれた。とうとう母ですらも

「ひかり、貴方何かあったの?」

 私に心配していた。学校の先生から連絡あったのよ、おやつも食べない、宿題もしない、友達とも遊ばない…。貴方無理してるんじゃない?

 こんな風に言ってきた。この度に私はプログラミングされた機械のように、

「ううん、大丈夫」

 こう繰り返した。母の不安と安堵が上手く混ざりきらない笑顔が、決まってこの話の最後に現れる光景だった。

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