第18話 変化

「ご飯よー。皆起きてー」

 ルナさんの声で目を覚ます。

 席に着くと、私の分のご飯が用意されていて、ちょっと安心した。

 あの、好意というギフトをなくしてもらったから、不安だったのだ。

 いつもの、と言っていいのかわからないけれど、変わらない一日の始まり……だと思っていた。

「麗孝、今日遊びにそっちの学校行ってもいい?」

「やめろ。真白が来るとろくなことがない。手鞠のところにでも行くといい」

 ……ん? 聞き間違い?

 まさか、麗孝さんがそんなことしないよねぇ。

 危険人物を知り合ったばかりの人のところになんて。

 そう思って横目でちらりと麗孝さんを見ると、麗孝さんは昨日よりも冷たい視線で私を見ていた。

 まさか。

「えー、やだやだ。麗孝の方が絶対面白いから!」

 真白さんも、私のことを構わない。

「……皆、照れてるのよ。気にしないで。手鞠」

 そう言ってくれるのは、刹那くらいで。

 ルナさんは、よくわからない。皆を同等に扱ってくれている気がするけれど、でも、私には一線引いている気がする。

「さて、もう登校する時間ね。行きましょう」

 ルナさんが皆にそう言うと、私の一歩前を歩いて皆と一緒に家を出た。

 私は、最後に家を出た。

 ……これを望んだのは、私のはずなのに。

 それなのに、どうして私は後悔をしているの。

 目に滲む涙を気のせいにして、つんとする鼻の奥の痛みに耐え、空を仰いだ。

「おーい、どうしたんだ」

「あ、遼……。おはよう」

「おう。おはよう」

 遼は、変わらないみたいで、安心した。

 なんでだろうと考えたけど、多分幼馴染として長く接してきたからという結論に至った。

「あれー、お前の家のやつらは? まさかお前を置いて行っちゃったわけ? 薄情なやつらー」

「いいの。私が……」

――そう、私が、望んだ。

 これが、本当の世界。

「お前が何したってんだよ。そうころころ態度変えるなんて、気味悪いってか、失礼だよな」

「そんなことないって。もう。とにかく、行こう……」

 歩き始めた私に、遼は納得がいかないといった表情を浮かべながらもついてきてくれた。

 そのことだけで、私の心は救われたような気がした……。


「守りの加護が、消えてますね」

「え?」

 学校に着くなり、慈恩先生に呼び止められ、人目のつかないところに連れて行かれてそう言われた。

「守りの、加護?」

「ええ。天からのギフト、なんて呼ぶ人もいます。高度な魔法使いならば多少はわかるのですが……。どうしたのですか? 昨日まで、あんなに加護がしっかりとあったのに。何か心当たりは?」

「実は……」

 言おうか悩んだ。

 どこから、どこまで言っていいものか。

 でも、言わないと何も始まらない。

 そう思って、私は一部だけ言うことにした。

「なんだか、人に異常に好意を寄せられている気がして、夜に願ったんです。こんな作られた好意は要りませんって。それが、神様に届いちゃったのかも」

「なるほど。一理ありますね。神様というのも、それぞれらしいですから。ですが、そういうこととなると、周りの目も変わるでしょう。その様子だと、もう経験されたようですね」

「先生、私、やっていけるでしょうか」

「……いつもの貴女でいれば、貴女を好きだと思ってくれる人は必ずいますよ。そのままの貴女をです。その方が、本当の友情を築けるのではないですか?」

「……そう、だよね」

 うん。……そうだ。先生の言う通り。

 自分で望んだことだ。私は、私で生きていくしかない。

 ありのままの自分で、生きて行こう。

 ありのままの自分を、認めてくれる人がきっといるはずだもの!

「頑張って」

 慈恩先生がそう言って去って行った。

 ありがとう。先生。

 私、頑張ってみる……!

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