第13話 ピンク色のお嬢様

「席はどうしようか。誰か」

 慈恩先生がそう言うと、すぐにあのピンクの子が挙手してすっと立ち上がる。

「私の隣が空いてますわ! ぜひ、私のお隣りへ!」

「そうですね。らんさんなら、特待生同士、話も合うかもしれません。手鞠さん、蘭さんの隣の席を使ってください」

 ひぇっ、いきなり要注意人物と一緒にするなんて、この先生、正気……!?

「大丈夫。彼女は賢いから。良くも悪くも」

 先生はそう言って私の背中を軽く押した。

 私は言われるがまま、蘭という女の子の隣に座ることになった。

「初めまして。椚木手鞠さん。私、宮ノ内蘭みやのうちらんと申します。宮ノ内までが名字ですの。どうぞよろしくね。私がいろいろこの学校について、教えて差し上げますわ。……ところで、椚木というお家について聞いたことがないのだけれど、どちらの出身ですの? この街では、ないみたいだけれど……」

「あ、私の家、元々は貴族の家だったんだけど、没落して名字だけが残っちゃったの。今は平凡な家だよ。もう財産も何もないもん。蘭ちゃんが羨ましいよー。宮ノ内家と言ったら、貴族の中でも上流貴族でしょ? 私、そんな人と友達になれるなんて嬉しいなー」

 ゴマすり、出来てるかな……。というか、これだけ言っておけば、きっと不快には思わないはず。

 そう思ったのだけど、私のことを蘭ちゃんは虫でも見るような目でこちらを見ていて背筋が凍った。

「……」

「え、えへへ」

 とりあえず愛想笑いでもしておく。すると蘭ちゃんはすぐに笑顔になって「あとで、学校を紹介して差し上げるわ。私がね」と言った。

 いやいや、それいじめのフラグだよね。フラグ立ててきてるよね! 先生ー!

 慈恩先生に視線で「やばい」と伝えるが、先生はウインクで返してくれた。

 違う! そうじゃない! 助けてー!

「手鞠さんとは、いろいろと楽しいお話が出来そう。もちろん、放課後も空いてるわよね?」

「いや、あの」

「空いてるわよね」

「……はい」

「そう。よかった。じゃあ、せっかくだから、私のお部屋に招いてあげる。特待生だから学園内の寮で生活しているから、そんなに疲れさせたりしないわ」

 うへぇ……。もしかして、個室でいろいろあんなことやこんなこと、されちゃうんですか。どこかの少女漫画みたいに! 何か、されちゃうんじゃ……!

「安心して。私、ただお話がしたいだけなの。……楽しみね」

「う、うん」

 そうは言っても、不安で仕方がない。

 だって、敵陣に丸裸で行くようなものじゃない……。

 どうしたら回避できる。どうしたら……。

「嬉しいわー、新しいお友達と早速お話出来るなんて」

 とても嬉しそうに、ちょっと大きめの声で言うものだから、周りは微笑ましそうにこちらを見ている。

 ダメだ。人生終わったかもしれない。

 逃げ道がないよ。

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