第4話 このまま次へ

 諦めてくださいと言われて、はいそうですかと受け入れることは今の私には出来ない。

 そうだというのに、宇都宮さんはどんどん話を進めていく。

「あなたが決められないなら私が決めるしかありませんからねぇ」

 その言葉を聞いて、私はふと思い出す。

 昔、お母さんに言われた言葉を。

「あなたはなかなか自分で決められないのね。でも、大事な時は――」

 そうだ。大事な時は、自分で決める……。

 そうしないと、流されるだけ流される人間になっていくだけ。それに自分で決めることが出来なくなったら、私はきっと後悔する!


 特にこんなに重要なことを全て決められていいなんて、そんなこと私は思わない!


「宇都宮さん、それ、キャンセルで!」

「はい?」

「クーリングオフ! というかまだ今世での私との契約はしてないんだから、契約なんてないも同然!」

「クーリングオフの期間は過ぎてますし……。いやぁ、参ったなぁ。こんな例聞いたことがない。決めて差し上げた方が丁寧かなぁと思ったのですが」

「16歳の子供だからって馬鹿にしないでよ! 私だって考える脳みそくらいある! 死んでるけど!」

「わかりました。……わかりました。では、こちらでいくつか候補の世界をご提案いたします。世界を決めてから、どのような形でそちらの世界で生きていくのかを決めましょう」

 それから、宇都宮さんはまた営業スマイルで世界を三つくらい候補を絞って教えてくれて、私はその中から一つだけ行きたい世界を選んだ。

 その世界は、ファンタジー世界とでも言えばいいんだろうか。剣と魔法とモンスターの世界だ。

 でも、学校もしっかりとあるらしいし、街に居れば基本的には安全だと教えてくれたからちょっと楽しみになってきた。


 ……こんな時、鏡お兄ちゃんや美鶴が居たら、三人で笑っていたんだろうな。

 鼓動のない胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような、そんな感覚があった。

 死んでからも、こんな感覚ってあるんだ……。

 なんて、今頃になって気づいた。


「さて、ここまで決めたら引き返せませんよ。あとは、何歳のどのような姿になってそちらの世界に行くかですね。生まれとかもどうしますか? 決められますよ。何なら雰囲気から魂の色などいろいろと変えられますが、いかがでしょうか」

「いいよ。このままで」

「え? このままでよろしいのですか?」

「うん。だって私は、16歳の速水手鞠はやみてまりのままがいいの。このまま、異世界とやらに行ってやろうじゃないの。あ、でも生まれはその世界ってことにしておいて。親は……いなくていいよ。私にとっての親はお父さんとお母さんだけだから」

「ふむ。確かに、承りました。まあ、前世分のギフトがまだまだ残ってますので、後々いろいろとお贈りします。では、あちらに扉が今から出現しますので、そちらから異世界へと行ってくださいね」

 その声の直後、扉が白い空間にゆっくりと下から上へと現れた。

 宇都宮さんと一緒に扉の前に立つ。

 重々しく扉は開かれた。

 その先は光で何も見えないが、どうやら異世界と繋がっているらしい。

「いってらっしゃいませ。もう二度と、お間違えの無いようお願い申し上げます」

 神様らしからぬ、そんな言葉を背に、私は異世界へと足を踏み入れた……!

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