第3話 最初のギフト

「失礼ですねぇ……。私、営業というより、管理部の方の人間なんで、その辺りは担当ではないんです」

「神様に営業があることの方が驚きだわ。というか管理部なんだ。へー」

「神なんて言っても、結局は組織ですよ。……気苦労も多いですし、人間界と何ら変わりません。古代はよかったー。……その話は置いておいて、涙、止まりましたね。よかった。……ということは、異世界にご興味が? なら尚更よかったです! 丁度部下……と言いますか、まあ大学の頃の後輩になるんですが、あなたによさそうな世界の担当が」


 神様にも大学あるの?

 ……なんか、ずるいな。ずるいよ。


 私は16歳で終わってしまったから、大学の楽しさを知らないし、もっと言えばもう少し高校生やって、クレープ食べたかった。

 もっと言えば恋愛だってしたかった!

 こうなったのも、全部全部、神様が決めたことなんじゃないの!?


 そう思っていると、神様は私に言う。

「確かに。そのせいで、あなたのような方がよくいらっしゃる。それは私も心苦しいところです。なので、先ほどご提案差し上げた転生や転移というのがよろしいかと。もちろん、ギフトつきで」

 ……ギフト? そんなの、要らない。

「私は、ただ普通の生活が出来ればいい。ただ、家族と一緒に生きたかったの! お父さんやお母さん、鏡お兄ちゃんや美鶴と未来を生きたかったの!」

 視界が涙で滲む。

「家族、ねぇ……。じゃあ、家族になれそうな人がいればいいのですか?」

「……そういう意味じゃない! 神様って、人間を創ったのに全く理解出来ないんだね。本当に、酷い話!」

「難しい注文しないでくださいよぉ。好きで理解できないんじゃないんですから……」

「それって、どういうこと。神様なら、教えてくれてもいいんじゃないの」

「神様じゃなくて宇都宮でいいです。そうですね……。まあ、教えてはいけないことになっていますので、秘密ということで。その分、またギフトを贈りますので」

 ……神様の宇都宮はそう言うとバインダーを何もないところから一瞬で出して、胸ポケットから出した万年筆でそのバインダーに挟んでいる紙に何か書き始めた。

「契約書を今書いていますので、少々お待ちください。こういうところもアナログじゃなくて電子化してほしいところなんですけどね。神も人間も……」

 いやいやいや!

「勝手に契約書作らないでよ! まだ何も同意していないんだから!」

「いえ、同意されてますし、随分前に契約されましたよ?」

「はあ? 全く覚えないんだけど」

「それはそうですよ。前世のあなたとのご契約ですから」

「……え?」


 前世の私、何をしたんだろう。

 というより、前世からの付き合いなんだ。宇都宮さんとは。

 でもさ、酷いじゃない。

 それが本当なら、前世の私が今の私を殺すことを決めたってことでしょう……。

 ぽんっと音がして、宇都宮さんの手にある契約書とは別の契約書が現れる。

「この契約こそ、最初のギフトだったわけです。前世のあなたへの贈り物でしたが、今回に回してくれと頼まれましてねぇ。こちらの記入済みのものは前世の契約書です」

 ……何やってくれてんの。前世の私。


「まあ、諦めてください」

 宇都宮さんは、笑顔でそう言った。

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