山の神

久石あまね

山には行くな

 「いいですね、学校から帰る途中に山に行っては行けませんよ」


 月一回ある集団下校の日に先生はそう言った。

 

 そんなこと言われるとかえって山に行きたくなる。


 案の定、小3の僕と6年生の友達3人と集団下校中に山に行った。


 その山は僕の家と学校の途中にある小さな里山で、別にその里山を通らなくても家に帰れるのだけど、山を通ったほうが近道になって、よく山の中を通って下校していた。山は竹の子が生えていてよく採取して家に持って帰っていたりした。山にはヘビがいた。友達は鹿や猿を見たという者もいた。


 今から考えてみると、都会の子じゃ味わえない体験で、結構貴重な体験なのではないかと思った。  


 僕の家は山の上にあり、山はほとんどが竹藪で急な斜面を登り切ると、僕の家に着くという感じだ。


 そしていつものように山に登っていると、急にめまいのような症状がでた。おかしいなと思っていると、前向きに転んでしまった。あっと言葉を出そうと口を開けてしまっていた。そして目の前には小さな折れた竹が生えていて、そのまま口の中に竹が刺さってしまった。  


 やばいなと思った。


 死ぬと思った。


 僕はこのとき、本当に死を覚悟した。細菌が口の中に入って死んでしまうと思った。


 不幸中の幸いか、口の中に小さな竹の破片が刺さっただけだった。


 6年生たちはびっくりしていた。僕もびっくりした、いや死ぬかと思った。

  

 僕は小さな竹の破片を爪を合わせて取ろうとしたが取れなかった。


 その時、声が聴こえた。


 頭の中に深く響く声だった。


 「もう山には来るな」

   

 僕は辺りを見回したが、6年生以外誰もいなかった。


 山の神の声だなと思った。

 

 結局そのまま家に帰った。  


 でも家に帰っても山に行って転んで、口の中に竹が刺さってしまったことを言わなかった。山に行ったことを怒られると思ったのだ。


 結局口の中の竹が取れたのは4年後の中学のスキー合宿のときだった。


 「はなさないで《話さないで》」と山が言っている気がしたから。


 

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山の神 久石あまね @amane11

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