第2話『昏天黒地』

 ……今のキミはただの着ぐるみに過ぎない。無能のくせにその知識のみでこの世界を救えるとでも?……あーいや、責めてるわけではない。『己』を知りたければ『オレ』を見つけくれ。そしたらキミはその着ぐるみの『真実うちがわ』を知れるはずだ。





 数分前……

 ――プルルルル……

 狭い研究室で博士は携帯を耳に当てて電話相手を待っていた。

 プルルルル―……プス……

「もしもし博士?場所分かったん?」

「ああ、旧東京駅だ」

「へーあんなとこに」

「まあ、とりあえず気をつけろ」

 電話相手が「ういっす」と返事すると、博士は電話を切った。

「あっ……そういえばネムに仲間が来るって言い忘れてたな。……まいっか」

 




 カラモン達がゆっくりと俺を囲むように近づいてくる。俺はその絶望から、目を閉じた。

 ピッ……ピッ……

 うるさい……もう静かにしてくれ……

 ピッ……ピッ……

(……うん?待てよ、なんだこの音は?)

 ピッ……ピッ……

 ヘッドホンからかすかに電子音が聞こえる。俺は何かを察して目を閉じたまま、首にかけておいたヘッドホンをつけた。

「「敵対オブジェクトを感知しました。プログラムを実行します」」

(……!!!)

 ヘッドホンから出る女性のAIのような声が頭の中に響いた次の瞬間。

「「ブリング・ザ・アクション・サウンドウェーブ」」

 周辺が少し揺れた。俺から何かの波が発せられた気がした。俺は目をそーっと開くと……何もなかった。カラモンすらも。

「何が起きたんだ……」

 地面を見渡すとカラモンのコアらしきものが沢山転がっていた。どうやらこのヘッドホンがまとめて群れを仕留めたようだ。

(ヤバすぎだろこれ……) 

 俺はカラーコア回収任務を思い出し、近くの上に繋がるであろうハシゴをゆっくりと上がる。するとビルの中にあるショッピングモールのような場所に出た。地下鉄より広く、回避はしやすいが武器を持っていない(使い方がわからない)ため油断はできない。

 警戒しながらしばらく歩いていると、妙なモノが視野に入った。しかし、『ソレ』をじっくり観察しても何故か認識できない。

(もしかしてあれが『カラーコア』か……?)

「「カラーコアを感知しました」」

 びっくりしたぁ……このヘッドホン、カラーコアも検知するのか。

 だが、カラモンが数匹いるのを確認して体を潜めた。足元を見ると、ちょうどいいサイズのガレキが落ちていた。武器(おびき)に使えそうだ。

 俺はひと深呼吸して……

(うりゃあ!)

 カラーコアの反対方向にガレキを投げ飛ばした。

(よし!上手くいった!)

 カラモンがガレキが落ちた方向に気を取られているうちに、用意しておいた携帯型のカラーコア回収機で素早くカラーコアを吸収し始めた。

「「87%…………残り9秒」」

(はやく……!こっちを向く前に!)

「「カラーコア回収完了」」

(よし!!)

 俺は勢いよく飛び出して出口に向かった……が、早くも違和感に気がついた。

 (……『白』の情報が、ない……)

 先に調べた情報では『黒』と『白』の情報があったはず…

 俺は走りながら携帯の画面を見ていると、大きな影が視野に入った。

「……!!」

 それは、さっき見た奴らとは比べ物にならないぐらい、巨大で狼のようなカラモンだった。

「「カラーコアを感知しました」」

「……!?おい……冗談だろ……」

 まさかカラーコアがカラモンに実体化したのか?いやそんなことよりこの状況から抜け出さないと……でも待て、白のコアが……

 そんなことを考えているうちに、狼カラモンの前足が飛んできた。俺は避けようとしたが、反応がワンテンポ遅れた。

(まずい、このままだとかわせな…)

 ガシャーーン!!

「!?」

 突然、横から飛んできた小型ドローンのようなものが半透明のバリアを生成し、カラモンのツメ攻撃を防いだ。すると、俺の目の前に見覚えのあるネコビトが立っていた。

(この後ろ姿は……博士!)

「あっぶねぇ、死人が出るとこだった」

 いや博士ではない。姿は似ているが声が明らかに違う。俺はネコビトに話しかけた。

「……誰だお前は?」

「あれ?博士から言われてません?」

 このとき俺は悟った。うん、アイツ、またなんかやらかしたと。

「とりあえずコイツを仕留めればいいんですかね?」

「いや無茶だ!コイツは厄介だし、しかもカラーコアが……」

「大丈夫です。任せてください!ネムさんは何かで気を逸らさせて!」

(なぜ俺の名前を……?)

 ネコビトが指パッチンをすると、その手元に光の粒が集まり出し、スナイパーライフルが出現した。

「これは……」

 これは『バレットM82』。旧世界最高の対物ライフルだ。旧世界(2100年以前)では最強と称されていたが、科学の発達により光線型の銃が普及し、実弾銃が使われなくなっていた。

(なのになぜここにこれが……それとどうやって……)

 しかしよく見ると、この銃は半透明である。まさか何かのエネルギーで形成されているのか?そうするとコイツは博士と関わっているに違いない。

「おい!……撃ったらカラーコアもろともぶっ飛ぶぞ!」

 俺が止めようとすると、ネコビトがこちらを振り向いてマガジンをチラリと見せた。

「『アドソープションバレット』……『吸収弾』です」

 吸収弾とやらは初めて聞くが、なんとなく予想はつく。

 するとネコビトはニーリング……膝立ち姿勢になってボルトを引き、スコープを覗く。まさか約12㎏のバレットM82を浮かして撃つのか?ならコイツもなかなかの化け物だ。

 俺は足元の小石をカラモンに投げつけ、横の方向に走り出した。案の定、狼カラモンは俺を追いかけようとした。

「成功。ヘイト完了だ」

 ネコビトに合図を送る。

「……照準よし、放ちます」

 ネコビトが引き金を引いた次の瞬間……

 ズドォォォォン!!!!

 何かのチャージ音が混じった射撃の音がビルに響き渡る。その銃弾は狼カラモンを貫いた。貫通したのだ。

 カラモンはバラバラに崩れてエネルギー粒子のようなものに変化し、ネコビトのライフルに吸い込まれていった。

「エグ……おい、コアは無事か?」

 俺がそういうとライフルがコアに変化し、ネコビトがこっちを見て微笑んだ。

(コイツ、コアを片手で持っているのか……?いや少し浮かしている?てかそれどうやってんの……)

 とりあえず命拾いしたが、なんとか一件(二件)落着。俺とネコビトはコアを回収機に保存して研究所に戻ることにした。





【あとがき】

第2話を読んでいただきありがとうございます!ネコビトは誰だったんでしょうか?()次がお楽しみですね!?ぜひぜひお読みください!(by 猫神くん)

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