第1話『色というミーム』

――2332年、地球は謎の現象によりこの世界から『色』が消えた。全ての人類は『色覚』を失ったと同時に、謎の生命体の暴走によって生き残った人類の生活が困難になり、自滅する者も増えていった。

 これを我々は……『モノクロイベント』と呼んだ。





――13年後、ある研究所にて……

 白衣を着た男2人がそれぞれ窓の外と天井を見ながらよそ見している。

 すると、コーヒーカップを片手に外を眺めていた方が話し出した。

「色の疑問に関してだが、研究結果が出た」

 何を言い出すのかと思えばまた研究話である。でも仕方ない、これぐらいしかやることがないのだ。

「んで、どんなのだ」

「前にこの世界の人類…………+α は、色が見えなくなったって話しただろう?」

 俺は「うん」と頷く。

「でも『黒』と『白』は見えているという疑問が浮かばないかい?」

 この言葉が耳に入った途端、俺の思考回路がプチっと弾け、怠惰が関心へと変わった。たしかにそうだ。光やモノクロは見えているのに、なぜ『黒』と『白』を認識できていなかったんだ?『黒』も、『白』も、立派な『色』だ。なのに俺らは『色』が見えないことを信じ込んで……

「もしかして……」

「そう、ミーム汚染だ」

【ミーム汚染】……大きく捉えると【認識災害】である。我々が感じている『常識』が無意識のうちに書き換えられてしまうこと。簡単に言うと……『洗脳』だ。

 やはり予想通りただ事じゃあ済まないな。この世界はついていなすぎる。





 

 ……先に話しておこう。内部が秘密だらけのこの研究所のことを。ここだけ【メタ】にはなるが、説明をしておかないと意味不明、理解不能な展開になるから許しておくれ。

 我々は研究者だ。と言っても人類のために活用しているわけでない……大まかなところはそうだが、主に[削除済]について研究している。そして俺はこの研究所、サイト-222の管理者をしているネムだ。んで、こっちのずっとコーヒーを啜ってるやつが猫神博士。俺は博士って呼んでる。確かコードネームかなんかで、モーメントっていう呼び名があるらしいがよくは知らん。ここの責任者で一応、コイツの方がセキュリティクリアランス……簡潔に言うとコイツの方が立場は上だが、昔からの仕事仲間……いや、そんな前じゃないと思うが、長く一緒に研究している。あと猫耳が生えているネコビトだ。大丈夫、これはこの世界では普通にあることだ。これはいつかあとで説明するよ。

「ところでネム、『カラーコア』の件は進んでいるか?」

 コーヒーを啜りながら博士がもう一度話しかけてきた。

『カラーコア』とは色の情報が集まった塊であり、世界から色が消えた時期から出現し始めた。調査してみた仮説だが、あらゆる色の情報が収縮されてカケラのように細かく世界中に散りばめられたものだと考えている。これを我々が開発した携帯型の回収機器で確保し、世界を元通りにするために色を開放するという流れである。そして、カラーコア集めの仕事を任されたというわけだ。あと先程、人類のために仕事をしているわけではないと言っていたがそれは『前』までの話だ。俺たちはこの世界に『色』を取り戻す。それが俺らの今回の『仕事』だ。





 

 俺は一旦調べた情報を言った。

「ひとつは旧東京駅にある。このカラーコアだけ2つの情報が入っている」

「と言うと?」

 博士が詳しく迫ってくると、俺は透明パネルのPCを開いて細かな情報を見つけ直した。

「……『黒』と『白』だ」

 博士は指を顎に当て「都合がいいな」と言ってニヤリと笑った。

 俺らは『全て』の色が見えていないわけではない。明暗が認識できる限り、『黒』と『白』は見えているんだ。それなのに『見えている』ことを認識できていない。だが、博士と俺はその認識災害を取っ払うことが出来た。しかし、黒と白のカラーコア……これは何かがあると俺は感じた。

「よし、もうそろ行かんと」

 研究者は実際に現場に行くこともある。なんならこの研究所は大体自分から足でおもむくため、一応定期的な運動はしている。俺は地図やレポートなどの資料をまとめて、白衣から柔軟性のあるコートに着替えて研究所を出ようとしたとき、博士に止められた。

「忘れるとこだった、これ、『カラモン』がいた時の装備だ」

 『カラモン』とはモノクロイベントとともに現れた敵対生物『カラーコアモンスター』である。名前の通りカラーコア同様、色の情報が含まれているが、それがなぜか生命体と化して地球上の生物を攻撃している。まだまだ謎は多い。

「おっ、サンキュー」

 俺はリュックを受け取って一つ目の『任務』へと向かった。





 23世紀……人類は遺伝子の突然変異とともに科学の急発展に成功した。スマホやパソコンは透明なパネルに変わり、武器はレールガンやレーザー、昔のSFから見た近未来そのもののようだ。それは24世紀に入ってもなお、成長がおさまる様子はなかった。『アレ』が起こるまでは。





  『旧東京駅』……赤レンガの駅舎があり、21XX年から路線が一つだけになったターミナル駅だ。周りを見渡すと、高層ビルなどが崩れ、沢山のガレキや破片が散らばっている。

「これが、東京か……」

 俺は科学都市圏(元関東)の中でも都会の方だったこの場所が荒地と化している様子に困惑した。数秒足を止めてから旧東京駅と思われた場所に入る。屋根がところどころ欠けており、光が差し込む。しかしその光の“赤”は物体を反射するが認識ができない。俺は散らばっているレンガが赤だと分からないのだ。

「そうだ、装備装備」

 俺は博士から貰った装備の入ったバッグの中身を覗くと、数枚のカードとヘッドホン、そして説明書らしきものがあった。

 カードには陰陽のマークが刻まれており、説明書によるとカラモンを排除できるらしい。ヘッドホンの方にも耳当ての部分に陰陽のマークがあって、説明書は……

「無い!またかよあの博士ぇーーー!」

 アイツはクールに見えて何かしらやらかす。この前だって研究室を爆破したし……とりあえず俺はヘッドホンを首にかけておいた。

 改札を乗り越えると、奥の方から気配がして咄嗟に柱の裏側に隠れて顔を出して奥を見た。しかし、カラモンの姿はない。もしかして人か?いやこんなところに人がいるはずがない。ここは特例脅威区域のはず。顔を柱にひそめた次の瞬間……カラモンが飛び掛かってきた。

「うわぁ!!」

 俺は咄嗟に回避し、尻もちを突きながらもポケットからカードを取り出して投げつけた。

 ゴォォォォォ……

 カードがカラモンの手前でブラックホールのようなものに変化し、カラモンを跡形もなく吸い込んだ。どうやらちゃんと効果があるらしい。しかし、本当に焦った。一歩遅れていたら普通の怪我じゃあ済まないだろう。俺は立ち上がってズボンの埃を叩き、奥のホームへと向かった。

 階段を上ってホームに着くと、入って右側には電車が止まっていた。フロントガラスはなく、二つ目の車両が半分潰れている。電車の中で息絶えると想像すると鳥肌が立つ。電車の中には骨のようなものが散らばっているかもしれないが色覚がないため、破片と見分けがつかない。その他の目立ったものはなかったので反対側の線路を観察することにした。

「……こっこれは……」

 俺はとんでもないものを目の当たりにした、線路に沿ってまるで渓谷のような亀裂ができていたのだ。

 しばらく観察をしていると急に背後にカラモンが姿を現した。

「クッソ……またお前k

 振り返ってカードを取り出そうとした瞬間、点字ブロックが壊れて、体勢が崩れる。「やば!」という間もなく、俺は渓谷へと落ちていった……





「イテテ…………」

 俺は渓谷の底まで落ちていったが、運良くリュックがクッションになってくれていた。しかも幸い高さ10mほど。どうやら俺は地下鉄のような場所に落ちてきたらしい。こんなところに地下鉄なんてあったんだなあと周りを見渡しながら考えていると、さっきのカラモンが飛び降りてきた。

(まずい……!地下鉄の線路は狭すぎてまともに戦えないぞ…!)

 試行錯誤していると、いつの間にかカラモンの群れに囲まれていた。俺は一か八かジグザグで、カラモンの間を素早く移動しながらカードをばら撒き、数体倒した。……が数が減る見通しがない。それどころか数が増え、地下鉄の壁すらも見えなくなってしまったのだ。

(カードで一体倒してフェイントでかわすしか…………!?)

 ポケットにカードはなかった。手持ちに武器は……ない。

「くっそ……」

 俺は唖然とし、頭の中が真っ白になった。まもなくカラモンの群れはゆっくりと俺を囲い込んでいく。

(ここで終わりか……?)

 膝がガクッと崩れる。





【あとがき】

『COLOR PALETTE』第1話を読んでいただき、ありがとうございます!自分の語彙力の無さも相まってかなり難しい物語だと思います…ミステリアスでアクション的な展開なので続けて読んでいただけると嬉しいです!(by 猫神くん)

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