58 ゴブリンと伊集院君

麗子&純子の愛の巣となっている、パンのウスヤも持ち直してきた。


勇太が手伝い始めて5日。ウスヤのパンは勇太効果でバカ売れした。


自衛隊出身の麗子の母親ユリエも勇太の人気を遠慮なく利用して、『ゴブリンパン』で店を繁盛させた。


「勝機が見えたら迷わず攻撃だ。分かったか勇太三等兵」

「はい、軍曹」


勇太、軍曹と呼び合う仲になっている。


見に来たルナは思った。あれ、甘い空気がないぞと。


勇太自身、パンの造形はルナ、熊、ウサギ、猫を作ったが、誰もがゴブリンとしか言ってくれない。


勇太はゴブリンじゃねえ、と言いたいが、崩れたパンの顔面モデルがルナである。本当のことは絶対に主張できない。


そうして『エロカワ男子のゴブリンパン』がネットの世界で広がってしまった。


どこかでイメージを変えたい勇太だった。



卸したカフェの方で特に売れる。


ウスヤ自体は当分は昼に閉めて、カフェの夕方のお客に向けたパンを作って持っていくことになった。


パン屋の常連さんも午前中の来店が多く、そこまで迷惑かけていない。



純子とも一緒に行動した。最初は嫌な顔をする女子もいたけれど、麗子やルナも常にセット。


純子&麗子で一つのカップル、勇太とルナでもう一つのカップルとして見られている。


なんとなく前世のような、『純子』との距離感に勇太はいい気分だ。



そして土曜日。


召喚した訳でもないのに強力な宣伝隊が現れた。


伊集院君がパラ高でみつけた3人の婚約者を伴ってリーフカフェに寄ってくれたのだ。


後ろには女の子がたくさん。まるでグリム兄弟編集の童話ハメルーンの笛吹き男の状態だ。


ちなみに、こちらの世界のハメルーンの笛吹き男は、グリムコ姉妹の童話集に入っている。



伊集院君達はカフェの前にパンのウスヤに行って、大量のパンを買ってくれた。


「こんにちは勇太君。今日は婚約者の笠山ヒスイ君のブラスバンド大会の応援に行った帰りなんだ」


「こんにちは」「どうもー」「話すの初めてですね」


「楽しそうだね。伊集院君」

「勇太君のパンのお陰だよ」


「? 」


婚約者3人が買ってきたパンを見せてもらった。なぜかみんな、勇太が今朝コネコネしたゴブリンパンだった。


伊集院君がいるから撮影している女の子も多い。勇太は今こそ、チャンスだと思った。


造形したパンはゴブリンではなく、熊、猫、犬だと言って動物をアピールしたかった。


しかし・・


「坂元君、私はこのゴブタロウがお気に入りだよ」

「私はゴブコがイチ押しだよ」

「私はほら、キーホルダーも持ってるゴブ神。パン屋に行ったらゴブ神のパンがあったから、テンション上がっちゃった」


ゴブ神と言われたのは、勇太がルナをイメージして造形したパンだった。


あれほどルナを思って愛情を込めてコネコネしているのに、何故にルナにならずゴブリンに変貌するのか。


それも神とは・・


「いやあ、勇太君のゴブリンのおかげで3人と、すごく盛り上がったんだ。ありがとう勇太君」


歯がキラリと光った伊集院君。


彼のせい・・いや彼のお陰でゴブリンパンの名称が固定された。


伊集院君が気がかりだった婚約者3人と一緒にデートしたときの親密感。


自分のパンが4人の距離を縮めるのに一役買った。


「ありがとうございます」

「ブラスバンドの応援のあとも、すごく盛り上がりました」

「坂元さんのお陰です」


「あ、ああ、お役に立てたなら幸いです」


ウスヤとリーフカフェの売り上げも好調。早くも妹のように思えているパラレル純子の手助けができている。


そして今はルナが純子のところに手伝いに行っている。姉妹仲も取り持てた。


ちょうど、ルナと純子で午後から売れているサンドイッチを運んできた。


そしてゴブリンパンもある。


今日は土曜日。勇太は朝4時から7時まで、ひたすらウスヤにおいてパンの造形を続けていた。


早くも売れ筋になっている。



しかし、なぜかパンが熊やルナにならない。


悲しくなって、歌を口ずさんだ。前世のバラードのぱくりだ。



ざわざわざわと、女の子がざわつき始めた。バイトに入っている梓も、手を止めて見ている。



場所は、すごく混んでいるリーフカフェの店内。

「おおっ。いいフレーズだね勇太君」


ハイスペック超人の伊集院君は、歌も歌えた。


間違いなく初耳なのに、合わせてボイスパーカッションをやってくれた。




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