54 異世界断罪返しの時間だ(笑)

さて勇太。


夏休みが近くなって、ルナ、カフェ、柔道、梓、カオル、時々伊集院君で過ごそう思っていたが、パンが加わった。


パン屋を手伝う予定の時間帯は、早朝4時から。6~7時からの中学生軍団とのランニング時間が削られるが、元々休みにしようと思っていた。


時期的に暑い。


朝7時とはいえ、先週の土曜日は無理して勇太のペースに付いてきた子が倒れた。


勇太は熱中症っぽくなっても20分で回復するが、普通の人はそうはいかない。


勇太がその子をお姫様抱っこして日陰に運んだ。


すると、翌日の日曜日にはバタバタと中学生が倒れた。勇太は救護班として走り回った。


ちなみに倒れた女の子らは10分後にはピンピンしていた。


しかし勇太は、事態を重くみた。しばらくは、その時間をパン屋の手伝いと、パン修行に充てる。


中学生はヤル気満々なのだが、やらかしたと涙した・・


とりあえず、ランニングを一緒にしている中学生のグループチャットには断りを入れた。


『ウスヤってパン屋の手伝いをしばらくやるんだ』


このメッセージが、どのように波及するか考えなかった勇太だ。


◇◇

10日は部活を休んで、臼鳥麗子のパン屋に行く。ルナも一緒。


部員の面倒はマルミら三姉妹に見てもらう。

報酬はもちろん、勇太の手作りクッキー。


午前中に1年のマルミの教室に行って渡したが、教室が騒然としていた。


「勇太先輩、クッキーを死守し、必ずや部員に届けてみせます」

意外とマルミからガチなムードが漂ってきた。


1年生には勇太ファンが多く、みんなギラギラしている。



純子を迎えに2年6組まで行った。今日は一緒にウスヤに向かう。


「よ、純子」「臼鳥さん、行こうよ」


「はい、ルナさん、坂元君」

「あ、ありがと、2人とも」


麗子は態度が変わらないが、純子はおどおどしている。


勇太は、今日はあえてルナと一緒に来た。ルナからのお願いだ。


パラレル勇太が関心がなかったので勇太も知らないが、純子とルナの確執は周りの目によって作られた部分もある。


華やかな純子、地味なルナ。実際に好みも外見も真逆な双子が、周りの興味を引きすぎた。


過去に起こったことでも邪推され、姉妹で大きな確執があると見られている。


だったら被害者と思われているルナから歩み寄る形をアピールして、姉妹で再び仲良くなりたいとルナが言った。


それがつい先程のことで2年4組の、ルナの教室前だった。



勇太はルナの優しい気持ちを褒めた。ルナは勇太のお陰で勇気が持てたと感謝した。


廊下の壁を背にして2人で微笑した。


勇太は誰も注目していなかった前世気分でやってしまったが、ここは男女比1対12の世界。


2人のあま~い空気に、ルナのクラスメイトは当てられていた。


純子は準備して、麗子と並んでいた。


「純子、麗子さん、私まで勇太と来ちゃった。へへへ」

「お姉ちゃん・・」

「勇太さん、ルナさん、わざわざありがとうごさいます」



しかし、邪魔は入った。


「花木ルナ、このクラスに彼氏なんか連れてきたらヤバいわよ」


「・・なんで?」


「姉のモノでも見境なく取っちゃう女がいるからでしょ」


「勇太の股間のモノは誰のモノでもないですよ」


「あ、いや」


いきなり論点がずれてるルナだ。それはともかく、いきなり純子のクラスメイトからクレームが入った。


勇太が初めて6組に来たこともあり、20人くらいギャラリーがいる。


長野多香子。純子と関係を持った3人目の男子の婚約者だそうだ。


その男子は3年生で、今日は登校していない。


なるほど長野は、希少な男子をゲットするだけあって、少し丸顔だが小柄の美形だ。


「その女、私とショー君が婚約してるの知ってたくせに、ショー君と寝たんだよ。訴えてやろーかな~」


「・・・」


純子は言い返さない。そして麗子が何か言おうとしても、押さえている。


「・・勇太君、やっぱり私に関わらない方が・・」


「ふざけないで!私の妹に謝ってよ!」


「え?」「へ?」「え?」


純子への侮辱に、大声を出したのはルナだった。


「お、お姉ちゃん・・」


ルナは一歩、前に出た。


「長野さんだっけ。言っておくけどさ、本当に純子が一方的に男を誘ったの」


「どういうこと」


「あなたの言い分だと純子が愛しのショーくんを押さえ付けたみたいだけど、男の人から被害届は出てないよね」


「そ、それはショー君が純子にも将来もあるから、断罪だけで済ませたって・・」


「私、そのショーくんに純子のこと聞かれたよ。私は純子と付き合うのはいいけど、彼女とか嫁はいないか聞いたよ。長野さん」


「も、もちろんショー君は私がいるって言ったんでしょ」


「言ってない」


「は?」


「だから、今はフリーだってハッキリ聞いた。ハンサム君だし女が1人もいないのはおかしいと思ったけど、本当だって言うから純子に会わせたの」


「ショー君が嘘言う訳ない。きちんと私がいること知らせたって!」


「考えてみたら、同じクラスの長野さんにバレないように、私でワンクッション置いたんだね、彼。そもそも180センチで75キロくらいの男子を純子が押さえ込んだと?」


「ぐ、きっと薬でも使ってか、集団で・・」


「それって、浮気以前に犯罪でしょ。結局は、純子が友達に責められたとき便乗させられたんでしょ、あなた」


「くそ、訴えてやる。損害賠償取ってやる」


「純子は、意外と筋が通った淫乱だよ。私のモノも狙って取った訳じゃない。こっそりセック●なんかしない」


※淫乱は、この世界の褒め言葉です。


「そりゃ、純子みたいな淫乱に、私も前は憧れてたけど、・・」


※褒め言葉です。



泥仕合ぽくなってきた。お互いに決め手がない。



「民事訴訟にあるね。損害賠償請求ってのは、男が妻子や婚約者アリって申告してるのに、女が無理に手を出したときにできるんだよね」



ざわっと、声がした。喋ったのは勇太だ。


「重婚法、第38条の第二項。本人同士が合意した婚姻であっても、甲が乙に対し、別の配偶者等の有無を虚偽申請した場合は罰せられる」


「え、なんで勇太が法律を・・」


ルナが、みんな驚いている。


勇太は最近の最注目男子。いい面も知られているが、成績が悪いことも知られている。


女子の最下位より点数ははるか下。男子を入れて下から11番目である。


なのに・・


「続いて浮気の概念について・・。これは平成2年の、ある裁判の判例ではありますが・・」


専門的な司法知識を披露している。


なぜできる。


お忘れだろうが、勇太の頭の中には前世との常識などの違いがインプットされている。


その中には、特に前世と違いがある婚姻などに関する決まりも詰め込まれている。


別に頭が良くなった訳ではない。



引き出した女神の知識。その中から『それっぽいやつ』を選んで口に出しているだけだ。


苦肉の策なのだ!


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