50 純子の糾弾は終わっていた
パラレル純子は、すでに足元が崩壊していた。
決定的なできごとは、勇太が転生した5月10日に起こった。
パラレル勇太を階段から突き落としたとして、双子の姉・ルナが逮捕されそうになった。
冤罪であり、新生勇太が事故から1時間半後には事態を収束させた。県外に出ていたルナの両親が学校に駆けつけるよりも早かった。
そのとき純子は午後から授業をサボり、当時の彼女2人と一緒に出かけていた。
駆け付けた両親がルナを連れて帰るとき純子はいなかった。
なぜ双子の姉のピンチに純子がいないかという話になり、授業をサボったこともばれた。
一緒に学校をサボった女の子の家で寝ていて、着信もシカトした。
事件のことを知ったのは次の日の朝だった。普段は優しい父親が怒った。母親には薄情すぎると泣かれた。
ルナの罪を捏造したのは純子に近付きたかった女子。そこに純子の罪はないのに、純子絡みだったことが何となく、周りの怒りに油を注いでしまった。
次の月曜日、エロカワ変身した勇太と、勇太が助けたルナが一緒に登校した。
ホットなカップルが誕生した日だ。
その時、純子は自分の教室の隅で数人の女子に問い詰められていた。ルナと共通の友人が教室に来て、薄情者とののしった。
状況悪しと見た純子の彼女2人も援護に現れなかった。そして縁が切れた。
さらに純子が寝取ったとは思っていなかった男の婚約者が、男を寝取られたと声を大きくした。
男に騙された感もあるけれど、ムードが『純子の断罪』に染まっていた。
純子がそこまで話して、ふっと笑った。
「なすりつけられた罪もあるけど、ほとんどが自業自得なんだよね。実際にヤってるし」
「そんなことになってたのか。すまん、助けにもなれず悪かった」
勇太はパラレル純子とほぼ初対面。だけど、どちらの世界の純子も似すぎているから、つい余計なことを言ってしまった。
気付いたが、口から言葉が出たあとだった。
純子は純子で驚いた。姉の彼氏とはいえ、接点ゼロの希少な男子が本当に申し訳なさそうな顔をしているのだ。
「いえ、むしろ私の方がルナお姉ちゃんを助けてもらったお礼を言ってなかった。ごめんなさい。まあ、今回のことも私が悪いのは事実だし、それから学校では静かにしてるの。そんでパン屋に行ってるの」
「2か月間ずっと?」
「うん、休みの日もね。家族とも、ますます顔を合わせにくいし、ちょうどいいの」
そこまで言って、純子は気付いた。なんで自分は初対面に近い人間、それも男子に身の上話をすらすらと語っているんだろうかと。
不思議な人だとは聞いていた。
姉のルナを大事にしているけど盲目的ではない。ルナを守るために、きちんと周囲との人間関係を作ろうとする。
希少な男子なのに、すごく腰が低い。
耳に入ってきていた通り、確かに不思議だ。
初めて話すのに、すごく馴れ馴れしい。聞いてたよりも、言葉遣いがぞんざいな気がする。
だけど嫌じゃない。
ついには、糾弾されたことまで話してしまった。
「ところで、なんでパン屋なの?」
「ああ、そこね。クラスで浮いたとき、クラスメイトで1人だけ声をかけてくれた人がいたの。この子の家が、さっきのパン屋さん」
「恩返しに、お手伝い・・」
「店がある商店街自体が寂れてるでしょ。人通りも減ってるの。パートさんを増やす余裕もないから、居場所にさせてもらう代わりに手伝ってるの」
クラスメイトの母親2人、パートさんの3人で店をやっている。しかし母親の片方が病気で長期入院中だそうだ。
余裕がない店。パンは焼けないが手伝っている。
「助けてくれたお礼か。いいとこあるじゃん」
「はは、そこまで墜ちる前に、気付いて何とかしろって話だよね。以前はゲスだったしね、私」
前世純子も、考えナシに動くことがあった。代わりに、モデル業という厳しそうな世界に飛び込んでいく勇気もあった。
「さっきのパン、美味しかったな。あ、そうだ」
ルナ、梓、カオルに相談だけど、この純子が困っているなら関わりたいと勇太は思った。
リーフカフェとパン屋の提携を漠然と思い浮かべた。
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