第34話 白いの美味しい

「それではやってみます」


 俺とサーチが見守る中、レナセールは金属板に手を翳した。

 魔法は何度見ても神秘的だ。

 それがただ水を撒くだけの装置を作る行為だとしても、不思議な気持ちになる。


 こればかりはきっといつまでも色あせない感動だろう。


 魔法刻印を済ませたレナセールが、ふうとため息を吐く。


 魔法については色々なものがある。


 いわゆる俺が想像する『魔法』は、頭の中で描いたイメージや経験をもとに、魔力で具現化するものだ。

 ファイア、ウォーター、などがそれに相当するだろう。


 『魔法刻印』は、武器や物質に性質を付与するものだ。

 例えば炎を纏う武器などがわかりやすい。


 だがこれには魔石や素材が必要だったりする。

 従者の能力が低ければ大したものはできないし、素材は良いものが高い。


 しかしレナセールはエルフ族ということもあって、魔法が非常に優れている。

 少しの力で、とんでもなく精度のいいものを作るのだ。


 今は水属性と合わせたらしく、空気中の水を物質と魔力で付与し、管を通して一定時間ごとに排出するものを作ろうとしている。


 分かりやすくいうならば、『永久機関水やり機』


 更に天井にはソーラーパネルも設置するつもりだ。

 これについては魔法で対応できない。なぜなら、レナセールが明確にイメージできないからだ。俺は別だが。


「どうでしょうか?」

「魔力媒体もしっかりしてるな。流石だ凄いぞ」

「えへへ、よし! 次々頑張ります」

「にゃああご」


 サーチも頑張るらしい。見張りを。


 それから俺たちは黙々と作業を続けた。

 錬金術ってのは字面も聞こえもいいが、地道な仕事でもある。


 研究者に近いだろう。


 ただそれでも、時折彼女と会話できる分、一人でやっていたときよりも随分と楽しい。


 夕食はめずらしく俺が作ることにした。

 頑張っているレナセールにご褒美というわけではないが、誰かが頑張っていると応援したくなるだろう。



 あらかじめ買っておいた牛ひき肉を丁寧にこねながら、玉ねぎのみじん切りとパン粉を加える。

 レナセールは隣で首を傾げていた。

 1人で何度か食べていたが、彼女に作ったことがなかったな。

 俺の得意料理――ハンバーグを。


「これ、どんな味なんです?」

「秘密だ。でも、気に入ると思うよ」

「ふふふ、楽しみです」


 次に、玉ねぎの甘みが肉に染み込むように、じっくりと焼き上げた。

 先ほどのハンバーグをフライパンで焼き上げている間に、ソースを作る。ハンバーグソースなんてものはないので、トマトと異世界のソースを混ぜ合わせた。

 最後にトロリとしたチーズをのせる。王都では乳製品が安く買えるのだ。個人的にかなり嬉しい。


 レナセールは興味津々だった。長くて白くて綺麗な耳をぴょこぴょこさせながら、隣で「おおっ」「すごい」と声を上げていた。


 出来上がり、テーブルに持ってくとレナセールは満面の笑みを浮かべていた。

 香ばしい肉の匂いとチーズが食欲をそそる。


 俺はレナセールに食事を頼んでばかりで申し訳ない気持ちだった。


 だが彼女は微笑みながら「楽しいので」と言ってくれていた。

 今その気持ちが分かった気がする。

 喜んでもらえるのは、嬉しいってことを。


「ちょっと熱いからな。冷ましながら食べるんだぞ」

「わかりました。えへへ、いただきます――んっ、美味しすぎますよ!? えええ!?」


 子供が初めて甘いものを食べたかのようなリアクションだった。

 なぜかホッとしながら俺も一口。

 ひき肉の中に、しっかりとした玉ねぎの甘味が感じられる。即席デミグラスソースも相性ばっちりで、チーズは深みを更に引き上げてくれた。


 うむ、美味しい。


 元々料理はあまりしてこなかったが、ハンバーグだけはなぜか得意だった。

 もしかしたら、今この時の為だったのかもしれない。


 サーチにも肉の部分だけ少しあげると、嬉しそうに食べていた。


 レナセールは何度もお代わりして、片付けは先日作り上げた浄化自動装置にセットした。


 一軒家は広くて良い。キッチンも以前と比べると二倍以上ある。

 ちなみに退去費用は凄かったので言いたくない。……あの大家め。


「ベルク様、ありがとうございました。はんばーぐ、私の大好物になりましたよ!」

「そうか。昔、よく食べてたんだ。こういった記念日にな」

「記念日? ですか?」

「レナセールの錬金術師への第一歩だからな。当たり前だろ」

「私の……えへ、えへへ。嬉しいです」


 奪われてきたばかりの自分が、何かを生み出すなんて思ってもみませんでした、と彼女は言った。

 それがどれだけの事なのか、想像はできても本当の気持ちはわからない。


 だが、今こうやって一緒にいることがすべてだ。


 明日は野菜の種を買いに行く。

 ついでにギルドに採集依頼も頼むとするか。



 その夜、レナセールは何思ったのか、甘い生クリームの瓶を持ってきた。

 何をするのかと思っていたら、胸の谷間に少し垂らし始めた。


「えへへ、今日ので思いついたんです。――どうぞ、召し上がってください。ベルク様」


 谷間から白濁汁が垂れていくと、いつもの白い肌がより妖艶な雰囲気を出していた。

 レナセールは賢く、常に勉強の姿勢がある。


 ぺろりと舐めると、耳がぴんぴんと動いた。


「耳は正直だな」

「えへへ」


 知見。ハンバーグとレナセールは、白いのをつけると美味しい。


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