第33話:どっちに転んでも大丈夫

「ベルク様、集金してきました。こちら今月分です」

「ありがとう。いつもの金庫に入れといてくれ」

「はい。あと、ミュウリさんが一週間で在庫がなくなったので、今の倍でも大丈夫だと言ってました」

「……倍?」

「驚きですよね。ベルク様が優勝した話が広がってるらしく、冒険者がこぞってお願いしてるそうですよ。なんと、予約待ちだと言ってました」


 ボロボロだった内装が錬金術と掃除で綺麗になってきた頃、レナセールから嬉しいニュースを聞いた。

 今まで手取りが30万ほどだったのが、倍ならば60万だ。

 元の世界で考えると平社員から部長に昇格した気持ちになる。


 とはいえその分素材も必要だし、時間もかかるだろう。

 ピッタリ二倍というわけにはいかないが、回復薬と状態薬作りにも慣れてきたのでそんなに苦じゃない。

 B級を卸す事も考えていた。

 1本でC級の10本分はある。


 品質も高くすればもっと高値で売買できるだろう。

 できればお得意様ができればいいのだが、少し考えるか。


 金が増えればそれ相応の物も作れる。

 幸せってのは、こうやって積み重なっていくものか。


「しかし、やっぱりお家は涼しくて最高ですね。エアコンがなければと思うとゾッとしますが」

「はは、サーチも喜んでるしな」

「にゃおおおん」


 不思議でありえないことだが、サーチは俺たちの言葉をわかっているような気がする。

 偶然とは思えないタイミングで返事をするのだ。

 まあ、ありえないが。


 以前作ったエアコンはリビングに設置した。

 小型の扇風機と合わせてエアコンも寝室に作ったので、快適な日々を過ごしている。

 何よりも魔法のおかげで電気代がかからないのがいい。


「お庭の草、綺麗に短くなりましたね」

「除草剤のおかげだな。調節もうまくいったみたいだ」


 今いる一軒家には庭がある。

 ただ草が凄かった。

 

 現代知識と合わせた錬金術のおかげで刈り取り必要もなく、さっぱりすると広さも相当なものだとわかった。

 そして、その為の準備もしていた。


「ベルク様は農業にお詳しいのですか?」

「詳しいというほどではないな。多少知ってるくらいか。それに大げさだよ。所詮、家庭菜園だからな」

「勉強不足ですみませんが、家庭菜園というのは?」

「売る目的ではなく、自分たちが食べる分を作るって意味だ。おそらくだが」


 広い庭を余らせておくのはもったいないので、簡単な野菜を作ることにした。

 土を耕し、肥料を撒いた後は、自動水やり機を作るつもりだ。

 異世界の野菜は美味しいのだが、結構いい値段がする。

 どうせならタダで作ってやろうという魂胆だ。


 大量の肥料と土は既に用意していた。

 商人ギルドに頼んで購入したもので、庭の端に沢山積んでいる。


「先に自動水撒き機を作ろうか。レシピは書きだしておいた。前に言った通り、俺は横で口を出す係だ」

「は、はい! 緊張します」

「いつもの回復薬みたいなもんだ。心配しないでいい」


 今回は一石二鳥を兼ねるつもりだ。

 レナセールの錬金術師としての第一歩でもある。


 奴隷の契約はまだ解除していない。

 レナセールの奴隷の印は強くはないが、大事を取って呪術師に頼んだほうがいいらしい。


 彼女は別にこのままでもいいと言っているが、俺としても申し訳ない気持ちが残っているので、早く解除したかった。

 ただ、少し不安はある。


 レナセールが離れてしまわないかと。

 解除した瞬間、酷い罵倒をされたらどうしようかと。


 しかしそれが顔に出てしまったのか、彼女が突然、目の前の椅子に乗って頬を掴んできた。

 近くで見る彼女の顔はおそろしく綺麗だ。


「心配しないでください。私はどこへも行きませんし、何も変わりませんから」


 たまに心の声が漏れているのか考える。

 サトラレという漫画を思い出すが、ただ単に俺が分かりやすすぎるのだろう。


「ありがとうレナセ――」

「もし私が悪い人なら、解除された瞬間、ベルク様に対して奴隷契約を結びますよ。だから、どっちに転んでも安心してください」

「……え?」

「ふふふ、冗談ですよ。私は永遠にあなたのものですから」


 不敵な笑みを浮かべるレナセール。

 冗談だと思うが、それはそれでいいかとも思ってしまった。


 その夜のレナセールは今までで一番Sだった。


 ……フラグではないよな?



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