猫とぬいぐるみ。

ふさふさしっぽ

本文

 俺は白猫。

 流れるように艶やかな、純白の長い毛に覆われた孤高の猫。

 誰にも干渉されず、また、俺自身、誰にも深入りしない。

 我が道を突き進む。

 自分を見失ったりしない。

 名前はマシュマロだ。俺の飼い主、工藤あかりが「白いから」という理由で名付けた。

 はっきり言って孤高の俺には似合わない名前だ。名前を変更してほしい。

 だが俺がいくらあかりに「名前を変えろ」と訴えたところで、あかりには「ニャー」としか伝わらない。俺たち猫は人間の言葉が分かるのに、人間のほうは「分かったつもり」になっているだけ。所詮人間とは、愚か者よ。

 まあ、そんな愚か者だから「マシュマロ」という名前でも俺は仕方なく我慢してやる。決してこの名前をちょっと気に入っているとかじゃない。決して。


「マシュー、マシュー」


 誰かが俺を呼んでいる。俺のことをマシューと呼ぶのはあかりだけだ。


「マシュー、ごはんだよ……あ、寝てる。きゃあ、かわいい」


 な、俺がかわいい? 聞き捨てならないぞ、あかり!

 はっ。


「あ、マシュー起きちゃった。そのままそのまま、はなさないで」


 なんだ、俺はあかりのベッドの上で眠っていたのか。なんだ? あかりが俺のほうにスマートフォンを向けている。いつもみたいに写真を撮る気なのか?


「はなさないで」


 はなさないで? 何を。俺は自分が抱き着いているものを見た。

 ウサギのぬいぐるみだと!?

 確か昨日、あかりがゲームセンターというところで取ってきたっていう。

 俺はこんなキューティなぬいぐるみを抱きかかえて眠っていたというのか?


「いい写真撮れた☆ このぬいぐるみはマシューにあげるね。お気に入りみたいだし」


 あかりはひとり納得してスマートフォンをしまった。

 あかりの後ろで、俺と同じ飼い猫である黒猫のココアがにやにやしながら言った。


「そのウサギのぬいぐるみ、マシュマロに譲るよ。どうやらお気に入りみたいだし」


 あかりと同じようなセリフをあざけったように笑いながら吐く。

 あかりにはココアのセリフは「にゃにゃん、にゃーんにゃ、にゃんにゃんにゃ」としか聞こえないだろうが、俺にはしかと伝わったぞ、覚えてろ、ココア。


 俺は孤高の白猫。

 ウサギのぬいぐるみを抱きしめて離さない姿を写真に撮られるなど、何たる不覚。

 俺は孤高の白猫。自分を見失ったりしない。

 ぬいぐるみのウサギなど……だけど、このウサギ、抱きしめるのにちょうどいいサイズだ。

 なぜだか俺を、引き付ける。

 もふもふ感が、最高だ。

 離したくないぜ……!


 俺は孤高の……ZZZ……。



終わり。

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