ロボット人間

クロノヒョウ

第1話




 たくさんの本が山積みになったデスクで男が頭を抱えていた。


「おい、どうした、何か悩みか?」


「また地球人だよ」


「ハハッ、また地球人か。で、今度は何て?」


「昔オレたちが書いただろ、この絵本。これを全部書き直せだとよ」


「全部!?」


「ああ、復讐はダメ殺しちゃダメ、鬼退治もダメなんだと」


 男はため息をついていた。


「なるほど、今流行りのコンプライアンス的な?」


「だから鬼退治はただの鬼との話し合いだ。いろいろな復讐もなし。謝って許してみんな仲良しでめでたしめでたしだ」


「それでいいのか? 謝れば何でも許されるって思われないか?」


「オレだってそう思ったけどさ、地球人からオッケーもらったからいいんじゃないの?」


「ふーん。で、何を悩んでるんだ?」


「ああ、これだよこれ」


 男は一冊の本を手に取った。


「……雪女?」


「それにこれも。鶴の恩返し」


「それがどうしたんだ?」


「考えてみろ。見ないで、話さないでと言われると見たくなるし話したくなる」


「地球人は欲深いからな」


「約束はちゃんと守りましょうという子どもたちへの教訓だよな」


「じゃああれか、どっちもちゃんと約束を守って末永く幸せに暮らしましたとさ。で終わるしかないのか」


「そういうことだよな」


「……なんか、つまんねえな」


「だろ? 子どもたちはこんなの読んで楽しいと思うか? やっぱりヒーローが悪い奴らをやっつけてめでたしめでたしのカッコいいのが読みたいだろ? 約束をやぶると自分が悲しいんだぞって教えてあげなきゃだろ? こんなの大人の勝手でしかない」


「何も見せないというのは確かによくないのかもな。過去の戦争のこともちゃんと知って、その恐ろしさを伝えなきゃならない」


「そうだそうだ」


「何も知らずに平和ボケしてるのは危ないかもな」


「自分の感情がなくなってロボットになりかねない」


「……いっそのこと地球人をロボットにしちまうか」


「それもいいな」


 男は互いに顔を見合わせた。


「……オフレコだぞ」






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