守るべきもの

砂漠の使徒

デート中の二人

「あっ……!」


 二人で並んで歩いていた時だ。

 突然マイハニーがか細い悲鳴を上げた。

 僕は隣を見て瞬時に状況を理解した。

 グッと腕に力を込めて、彼女を引っ張る。

 そのおかげか、愛しのマイハニーは地面に対して体を45度の角度で傾けたまま静止した。

 さながら僕達は、フィギュアスケートの一場面を切り抜いたかのような魅力的なポーズになっていることだろう。


「おねがい、マイダーリン……」


 姿勢はそのままで、顔だけをこちらに向ける彼女。

 その目は潤んでいて、いつもより儚げな印象だった。

 不覚にもかわいいと思ってしまう。


「ああ、わかっているさ」


 握りしめた手に、さらに力が入る。

 いけない、このままではマイハニーの柔らかな手を潰してしまわないだろうか。

 あるいは、手汗で滑ってしまうかもしれない。


「あのとき、みたいに……」


「そんなことはさせないさ」


 あのとき。

 つい先週のことだ。

 来月の結婚式で頭がいっぱいだった僕は、デートの最中だというのに手の力が抜けて、いつの間にか愛するハニーの手を離してしまっていた。

 そして、そんなときに限ってだ。

 運悪く後ろから走ってきた男の肩が、彼女にぶつかってしまい……。

 ああ、思い出すだけでいろんな感情が溢れてくる。

 あのとき僕がしっかりと彼女の手を握っていれば。

 後悔先に立たず。

 だが、同じ過ちはもう繰り返さない。

 今度は……いや、二度と。


「絶対に、君の手を……」


 熱いまなざしでマイハニーを見つめる。

 彼女も同じ思いのようで、目を合わせた瞬間にお互い頷いた。

 そして、彼女はゆっくりと唇を動かして次の言葉を紡ごうとする。

 二人の脳内に同じ言葉が浮かぶ。

 クライマックスだ。


「うん、私の手を……」


「話さないで」


「「え?」」


 セリフは想定していたものだった。

 しかし、それを発したのは横から現れた女性だった。

 彼女は、大小様々な本を抱えている。


「愛を語るのは自由なんだけど、ここ図書館。お静かに」


「「……」」


 彼女には見覚えがある。

 よくカウンターに座っている人だ。


「わかった?」


「はい」

「はなしません」


 そう告げて、僕は握る手に力を込めたのだった。


(了)

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守るべきもの 砂漠の使徒 @461kuma

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