競馬場にて【KAC20245・はなさないで】

カイ.智水

競馬場にて

 東京競馬場第十一レース。

 勝負は写真判定に持ち込まれた。

 それほど僅差の競り合いである。


 一着二着は微妙なところだが、僕の買った複勝は見事に外れた。

 恋人の頼子は三連単が当たりそうだが、それは一着二着の着順次第である。三連複で買っていれば、こんなにドキドキした心境にはならなかっただろう。


 頼子は競馬好きであり、賭け方も三連単の一点勝負。

 なのに勝率は複勝を買う僕よりも高い。まさに馬券師といったところである。


「三着の十番トーヨコプリンスは確定か。あとは一着が五番のハラホロヒレハレ、二着が六番エイコウノカケハシなら頼子の馬券は的中だけど」


 そう。三連単は一着、二着、三着をすべて的中させなければならない。着順もきちんと当たっている必要がある。


「私の目だと一着ハラホロヒレハレは固いと思うんだけど」


 ちなみに当たれば十万馬券である。

 百円買ったら十万円に化ける。まさに夢のある馬券だ。

 頼子は千円賭けているので、当たれば百万円。

 これでブランドバッグを買うんだと息巻いていたが、今の彼女は不安で仕方がないようだ。

 僕にしがみついて離さないでいる。


 百万円かゼロかでは大違いだ。


「写真判定長引いているね」


 僕は彼女を和ませようと声をかけるが、頼子は馬券を握りしめている。

 すると場内がざわめいた。


「どうやら写真判定の結果が出たようだね」

 僕は着順掲示板を注視した。背の低い頼子からは見えていない。


「えっと、一着ハラホロヒレハレ、二着エイコウノカケハシ。あ、頼子、お前の馬券当たったぞ」

 彼女を安心させようと大声で伝えた。


「本当なの」

 頼りない声が返ってくるが、場内の歓声は一気に膨れあがった。


「本当だって、お前も見てみるか。持ち上げてやるから」

「いいわよ、恥ずかしいから。まあ当たったのなら払い戻ししてすぐに帰りましょうよ」


 着順掲示板の隣のスクリーンに判定結果の写真が表示された。


 すると後ろから大声が聞こえてきた。


「こりゃあ、鼻差ないで」



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競馬場にて【KAC20245・はなさないで】 カイ.智水 @sstmix

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